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読書感想(おちまこと)

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2023年5月の記事一覧

読書感想  『何者かになりたい』 熊代亨 「穏やかな結論の重要性」

 主人公の一人が「何者かになりたい」と思いつめるところから始まるドラマがある。  何者かになりたい、と決意して動き始めれば、何者にでもなれる可能性は出てくるけれど、何者にもなれないかもしれない。  そんな危うい未来も含めての決意だと表現されていた。  さらに、その「何者にもなっていない」過程の描き方が、全く先の見えない状態に居続ける感じがリアルで、おそらく共感できる人が多いのだろうとも思えた。  こうしたことがドラマになっているということは、この「何者かになりたい」は

読書感想 『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤彩 「奇跡のようなドキュメント」

 この書籍のことを、最初にどこで知ったのかは覚えていないのだけど、その内容については、忘れられなかった。  医学部受験を母親に「強要」されて、9年も浪人し、そして、その娘が母親を殺害する。  そんなことがあるのだろうか。という思いと、そうした当事者がどんな気持ちでいたのか。そういうあまり上品とはいえない好奇心のようなもので、読みたいと思った。  だけど、同時に、とても重い内容だという覚悟のようなものもあった。 『母という呪縛 娘という牢獄』 齊藤彩  最初に、意外だっ

読書感想 『アート/ファッションの芸術家たち』 「かっこよくて、緊張感もあって、気持ちがいいこと」

 ファッションは、自分にとっては遠い。  それでも、時々、服という実際の物体だけではなく、それを、どのように製作したのか、という作り手の言葉が、とてもすごくて、もっとわかりやすく言えば、かっこよく思えることがある。  だから、図書館に行って、妻がファッションが好きなので、アートと関連した本を借りてきて欲しい、と言われ、タイトルがそのままだったので、借りてきた。その著者も、私にとっては、まったく知らない人でもあった。 21世紀の創造と融合 『アート/ファッションの芸術家た

読書感想 『黒い海 船は突然、深海へ消えた』  「取材の意味。証言の重さ」

 この作品についての紹介は、たまたま、ラジオで聞いたのだと思う。  そのとき、自分でも少し驚いたのは、17人も犠牲になった海難事故だったのに、まったく記憶にないことだった。  その事故は、すでに15年ほど前のことだったし、どうして、今さら、という気持ちにもなったのだけど、その自分の感想も含めて、もしかしたら、そうした感覚が、重大な事実を埋もれさせ、忘れさせるのかもしれない。  そんなことも感じ、読もうと思った。 『黒い海 船は突然、深海へ消えた』 伊澤理江 その事故は