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読書感想(おちまこと)

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2022年12月の記事一覧

読書感想 『雌伏30年』 マキタスポーツ  「自意識との格闘の歴史」

   テレビドラマを見ていると、気がついたら、姿を目にしている。それだけ、いわゆる脇役として、かなりの頻度で出演しているのだろう。   出てくるたびに「マキタスポーツだ」と、心の中で思ってしまうのは、ポッドキャストから始めてラジオ番組にまでなった放送の中で、その話す声を聞いていて、勝手に微妙ななじみ感を持ってしまっていたからだと思う。   ただ、実は、そのマキタスポーツ(本名・槙田雄司)という人のことを、本当に知らないのを、この本を読んで分からされた。というより、当たり前

読書感想 『くるまの娘』 宇佐見りん   「家族という地獄で生き続けること」

 若いうちに才能が認められた人は、若い、という形容詞を、おそらく数限りなく言われて、本人にとってはうんざりすることだろうし、そして、今を生きている本人にとっては「まだ若い」と余裕を持って感じることは、おそらくないのではないか。  そんなことを薄々思いながらも、でも、若くて作品が優れていると、やっぱり「若いのにすごい」と失礼な表現をしてしまうこともある。  宇佐見りんという作家は、21歳で2作目で、すでに芥川賞を受賞している。その作品も読んだけれど、圧倒的な作品という印象が

読書感想  『懐霄館---白井晟一の建築』 「建物の重量感が体に伝わる本」

 テレビ番組「日曜美術館」で、白井晟一という建築家のことを初めて知る。  もちろん、建築界では有名で、だから、私が無知なだけだったのだけど、その番組で見ただけでも、独特な建物を設計し続けた人で、写真で見ても、何しろ自分の考えを貫く強さを持つ佇まいの人だった。 松濤美術館 その白井氏が、東京渋谷の松濤美術館を設計した建築家。というのを知った時に、なんだかとても納得がいった。  あの建物が竣工したのが1980年のはずだったのだけど、行くたびに、真ん中に噴水を設置するという、

読書感想 『フィールダー』 小谷田奈月 「世界の解像度をあげる試み」

 図書館にはインターネットで予約できるシステムができていて、とても使いやすくなり、さらには、「今度、読もう」と思った書籍などを忘れないように、「お気に入り資料照会」というリストも作ることができて、気がついたら1000件を超えていた。  様々なメディアや、いろいろな人からの情報で、読みたい本は増えていく。あまり増えていくと、本当にいつか読める日は来るのだろうか、と思ったり、この本を、どこで知ったのかも分からなくなる。  今回も、そうした書籍だった。 (※ここから先は、内容

読書感想 『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』  「21世紀のビジネスパーソンの必読書」

「ファスト映画」という言葉を知って、だけど、音声メディアを「1・5倍速」で聴くのが常識にもなっている時代なら、それを公開することが違法として逮捕されるのは当然だとしても、手っ取り早くなんとかしたい、という傾向は、「コスパ」という言葉とともに加速しているのではないか、というちょっとした怖さはあった。  だけど、それに対して、何もできないし、自分とは違う速度で社会が流れている感覚はありながら、でも、同時に、矛盾するようだけど、それでも、図々しいとしても、生き残れることはできない