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読書感想(おちまこと)

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2022年10月の記事一覧

読書感想 『なぜ人は宗教にハマるのか』 島田裕巳  「21世紀にも知っておくべきこと」

 20世紀後半には、21世紀の未来には、さらに科学が発達し、様々なことが明らかになり、宗教はなくなってしまうのではないか。そんなことが議論されていた記憶があるし、もしかしたら、そうなるのかもしれないと思っていた。  それなのに、1995年には地下鉄サリン事件が起こり、その後に、オウム真理教事件の全貌が明らかになった時には、社会に宗教に対しての恐怖心が満ち、ヨガまで避けられるような時間が続いた。  それから時間がたち、21世紀にはスピリチュアルがいつの間にか盛んになってきた

読書感想 『N/A』 年森瑛  『「ただの自分」の難しさ』

 やっぱり、最初に調べてしまった。  「N/A」を検索する。  分かったようで、分からない。  タイトルから、微妙な拒絶感が漂っている。と思ってしまうのは、読者である自分の問題かもしれない。 (※これ以降は、小説の内容にも触れるので、ネタバレになる可能性もあります。未読の方で、何の情報もなく読みたい方は、ご注意くだされば、ありがたいです)。 『N/A』 年森瑛  毎日の生活が大変だとしても、基本的には今の社会への根本的な疑問を持たず、適応している大人からは、「難しい年

読書感想  『性と芸術』 会田誠  「膨大な思考の過程」

 会田誠は、アート、それも現代美術と言われる分野に興味を持たせてもらった「恩人」と、個人的に一方的に思っている。  情報誌に、ホームレスのための城のようなダンボールハウスを制作し、写真としては残っているが、実際に新宿に設置したら、どこかへ行ってしまった、というような作品への説明が載っていた。  それを読んだとき、説明し難い気持ちになって、同時にとても強い興味を持てて、それまで現代美術だけではなく、アートや美術全般に全く関心がなかったのに、急に見たくなり、それ以来、20年以

読書感想 『あくてえ』 山下紘加  「介護時間のリアル」

 読む前と、読み始めてからの印象は違っていた。  作者は1994年生まれ。2015年には、文藝賞を受賞して小説家としてデビュー。  それから、4作目だから、若くて才能があって、「現代」の作家で、自分は知らないような若いテーマではないかと思っていたのだけど、この作品の中には、自分も知っている「時間」のことも書かれていた。  それは、とてもリアルだった。 『あくてえ』 山下紘加  主人公は19歳。母と、祖母と同居している。  祖母は、父方なのだけど、両親は離婚している。

読書感想 『家庭用安心坑夫』 小砂川チト  「未知の世界の現実感」

 とても表面的な興味なのかもしれないけれど、芥川賞の候補になったから、作者の名前を知ることもできた。  ただ、それだけでなく、書評家と言われる人のすすめ方に不思議な熱を感じて読むことにしたのは、タイトルの分かりにくさもあったと思う。 『家庭用安心坑夫』 小砂川チト 最初から、あり得ないことが起こっている。  東京のデパートで、距離的には遠い、子どもの頃に住んでいた実家に貼ってあるはずの、けろけろけろっぴのシールを見つける。  ただ、それが、ただの変わった話で、妄想に過