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読書感想(おちまこと)

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2022年7月の記事一覧

読書感想 『遅いインターネット』 宇野常寛  「これからのオーソドックス」

 宇野常寛が、久しぶりにラジオで語っているのを聞いた。  考えたら、宇野氏は、ラジオでレギュラー番組を持っていたし、ワイドショーのコメンテーターまで務めていた時代があったことを思い出し、その発言も気になっていたし、最近の著作を読んでいないことに気づき、失礼ながら改めて読もうと思った。 『遅いインターネット』  宇野常寛  これまでの30年の日本がダメだという指摘は、とてもたくさんされてきて、ただ、それは、おそらくは、この30年だけではなく、その前から続いてきたことだったし

読書感想 『ソ連兵へ差し出された娘たち』 「今も続く鈍感な冷酷さ」

 ラジオで聴いていて、コメンテーターのすすめ方の熱量が高かった。  どこかで、怖さもあったのだけれど、でも、読まないといけないのではないか、といった気持ちになった。 『ソ連兵へ差し出された娘たち』  平井美帆 戦争中ではなく、敗戦直後の満州での出来事。それは、恥ずかしながら私は全く知らないことだった。日本人のコミュニティは、その「組織」を守るために、若い女性を差し出した。そのことは、男性幹部の話し合いで決定していた。  そして、その犠牲は「接待」という名前をつけられて、

読書感想  『ライティングの哲学 書けない悩みのための執筆論』  「書くことの本質」

 こうした本を読むときに、自分の中で雑音になってくるのが、「うらやましさ」だった。  書くことが仕事になる上に、需要が多い書き手であれば、仕事はこちらから売り込まなくても、向こうからやってくる。その上、書くことに苦戦し、締め切りを破ることになっても、次の仕事がある。  そんな状況の書き手が、書けない悩みを語るのは、私にとっては「貴族の話」に思えて、それは単なる嫉妬なのだけど、自分の中の雑音になって、読むことに集中できないこともあった。  だから、この本を読み始めても、最

『海をあげる』 上間陽子 「正確で切実で鮮やかな日常」

 著者の本業(こういう表現も少し違うかもしれないが)は、大学の教員であり、研究者である。  同じ著者の別の著作(「裸足で逃げる」)を読んで、こんなに「見えている」人が、大学の先生でもあることに、今、もしも自分がノンフィクションの職業的なライターだったしたら、そんな比較は意味がないとしても、とても敵わないのではないかと感じたりもした。  そして、この本は、著者の「目の前の日々」のことを書いたものだけど、著者自身の気持ちの変化も正確に鮮やかに描かれていることで、読者にも、切実

読書感想 『オッサンの壁』  「男性の必読書」

 ラジオで話している声を聞いた。  柔らかい印象で、丁寧に伝えようとしていると思った。    その女性は、「全国紙初の女性政治部長」になった人で、そこで話されていることも、自分が知らないばかりではないかという感触があり、その著書を読んだ。  本当に貴重な記録だった。そして、女性が日本社会で働いていくことで、これだけ大変な思いをしていることを、本当の意味で知らなかったし、何も出来ていなかったから、自分も「オッサン社会」に加担していたのだと思った。  男性の自分は、女性の視点