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読書感想(おちまこと)

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2022年5月の記事一覧

読書感想 『平熱のまま、この世界に熱狂したい』 宮崎智之  「誠実で、切実で、正確な等身大の願い」

 気がついたら、何年も聴いているラジオ番組があって、そこに自分にとっては知らない人が出演していることも少なくない。失礼なことだと思うけれど、そこでの話を聞いて、興味を持って著書を読むことがある。  宮崎智之氏も、その一人だったのだけど、自信があるように話す人たちが多いのに、その出演者の中で少し引っ込んでいるような、まだ考えが固まっていないまま、それでも話そうとしているあり方が、興味をひいた。  その時の、試行錯誤が、自然に現れているような姿勢を、その著書を読んで、思い出し

読書感想 『ほんのちょっと当事者』 青山ゆみこ  「体験を言葉にして伝える重要性」

 表紙のイラストが不思議だった。  柔らかいタッチなのに、そこに描かれている人物が、とてもクールに見えて、ちょっと怖かった。  だから、少し敬遠していたのだけど、読んでみたら、そこで語られていた様々な体験は、その微妙な距離感のおかげで、より正確に伝わってくるのだと思った。 『ほんのちょっと当事者』 青山ゆみこ  以前ならば「赤裸々」という表現もされそうな話が続くのだけれど、例えば「自己破産」しそうだった話は、著者自身の体験でありながら、話し方にかなりの距離感があって、それ

読書感想 『自分の意見で生きていこう』 ちきりん  「これからの時代の教科書」

 考えることは大事だ。自分の意見を持ちましょう。  おそらく数限りなく言われてきた言葉だし、何百回と目にしてきたと思うけれど、実は、学校を卒業すると、耳にすることは少なくなって、時々、誰かの言葉として文章として読むことになり、だんだん、それすらなくなっていくのは、大人になるほど本を読むことも少なくなっていくからで、それが一般的(多数派)と言われている。  考えるとはどういうことか。意見を持つためにどうすればいいのか。  そのことを問われて、明確に答えることができる大人は

読書感想 『アンソーシャル・ディスタンス』 金原ひとみ 「生きたさ、苦しさ、死にたさの具体性」

 デビューは華々しかった。  2004年、金原ひとみは、20歳で芥川賞を受賞した。  それも19歳の綿矢りさと同時受賞で、とても注目されたのは覚えているが、屈折した人間にとっては、うらやましさもあったし、商業主義ではないか(こんな風に思うのも恥ずかしさがあるが)、といった気持ちにもなって、読むのを避けてしまった時期があった。  あれから20年近くがたっていて、今も作家として、きちんと作品を書き続け、それが今の時代のことも解像度が高く描写していることを、恥ずかしながら改めて