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読書感想(おちまこと)

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2022年3月の記事一覧

読書感想 『すべての男は消耗品である 最終巻』 村上龍  「歴史の定点観測」

「カンブリア宮殿」を久しぶりに見たら、村上龍に、急に老いを感じた。  それは、とても勝手で、失礼で、しかも、生きていれば歳をとるのは当然のことなのに、そんなふうな外見的なことばかりに注目をするのは、どこか浅ましいことだという自覚はある。  村上龍は、もう70歳になるのだから、と思いながらも、それでも、去年、この番組を見た時と比べて、その老い方が急過ぎるように感じていた。  そして、同じ頃、「すべての男は消耗品である」というエッセイ集が最終巻を迎えたのを知ったのだけど、そ

読書感想  『13歳からのアート思考』  末永幸歩 「本当に必要な思考方法」

   いろいろな場所で、読みたい本が出てくる。  テレビで見ていて、そんなに評判だったら、と著書も読む気になって、だけど、それほど期待もしないで、図書館で予約をして、届いたとメールが来た。 「自分だけの答え」が見つかる 『13歳からのアート思考』 末永幸歩   読み進めると、自分が愚かだったことに気がついた。テレビ番組で見せていた姿は、ごく一部で、というよりも、著者のイメージが、かなり変わっていくのに気がついた。  冒頭で、モネの睡蓮について、語られている。モネが、自宅

読書感想 『あやうく一生懸命生きるところだった』 ハ・ワン  「誰もが言ってほしい言葉」

 今の時期に、不思議に思うのは、受験生への社会の共通の気遣いのようなものだ。  受験生に対しては、みんな優しいような気がする。  自分が、受験生の時は、どう考えても、仕事をしている社会人の方が大変なのに、テレビのアナウンサーまでが、なぜ、柔らかい声をかけてくれるのだろうか、といった疑問はあった。  隣国の韓国では、受験の競争がより厳しいということは、ニュースなどで知っていた。同時に、どうやら日本よりも、受験生が大事にされているらしい、ということも伝わってきた。  そし

読書感想  『愛と差別と友情と LGBT Q +』 北丸雄二 「回路を通じさせるためのガイドブック」

 LGBTという言葉を覚えたのが、恥ずかしながら、自分の中ではつい最近だった。そこにQが加わり、さらに+という表現もされるようになった。定着と変化のスピードは速くなった。たぶん、理解が追いついていない。  それは、おそらくは単に、見えていなかった事が見えるようになっただけなのだろう、と思えるようにはなったものの、それでも、自分は分かっていないし、分かるようにならないのではないか、という恐れのようなものは、ずっとある。  橋本治の小説の中で、自分の思いを相手が受けいれてくれ