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読書感想(おちまこと)

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2022年2月の記事一覧

読書感想 『星月夜』 李琴峰 「心細さと、分かり合えなさ」

    しばらく芥川賞のようなものに興味が持てない時期が続いたのだけど、再び興味を持てたのは、ラジオ番組で、小説をどう語るか、といった面白さにも接してからで、それで、改めて作品を読もうと思えた。 (なんだか、偉そうで、申し訳ないのだけど)  この番組の中で、日本語が母語でない作家の作品の語られ方と、実際に芥川賞を受賞したので、「彼岸花が咲く島」を読んでみた。そこには、言葉として近づけそうだけど、自分が理解しようとすると、かなりの困難があったので、読み進むのをやめてしまった

読書感想 『死に魅入られた人びと  ソ連崩壊と自殺者の記録』  「人が生きていける理由」

 自殺率の高さで、日本は不幸なことに、2016年の調査でも「G7ではトップ」という状況になっている。  この順位で、以前からよく目にした印象があり、気になっていたのは、旧ソ連の国々だった。  国の体制が変わったから、という激変はあるものの、日本という西側の価値観から見ると、解放された部分もあるのではないか、と勝手に思っていたので、その自殺率の高さの理由については、想像すら出来にくかった。  そうしたことに関して、1冊の本を読んだだけだけど、自分では思いつきにくい要素があ

読書感想 『弱さのちから』 若松英輔……「コロナ禍に読まれるべき本」

 とにかく、なめられちゃいけない。  思春期だったり、不良だったり、ヤンキーだったらともかく、会社という組織で働いている人間からも、老若男女を問わず、その言葉を何度も聞いてきた。  そのたびに、微妙な違和感があった。  まず、実用的な面から言えば、なめられちゃいけない、という態度そのものが、最も、なめられるのではないか、という疑問。さらに、なめてくる人間は、その場面で、ある種の本質をさらしているのだから、逆に相手にしやすいのではないか、という想像。  だけど、それは、

読書感想  『辛酸なめ子の独断!流行大全』 「2014から2021までの記憶のアルバム」

 本当に、いろいろなことが起こって、うそのように、ほとんどすべてを忘れていく。  それは、おそらく私個人だけでなく、今を生きている人ならば、ある程度以上、同意してくれるように思う。  本当は、自分のことでなく、遠い場所で起こっていますよ、という報告が多いから、その出来事が身に染みていないだけなのかも、と思いながらも、それでも忘れてしまうことが多すぎるのではないか、とも感じる。  ただ、この本は、目次のタイトルだけでも、不思議なくらい、その忘れていたこと自体を、思い出した。