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読書感想(おちまこと)

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2022年1月の記事一覧

読書感想 『いつまでも若いと思うなよ』 橋本治  「老いることの分からなさ」

 中年になって、これができなくなった、こんなふうに衰えてきた、という話を、相手が笑うことを前提に、自虐的に語られてきた場面は、これまでにも数多く見てきた。 「老い」の種類 それは、自分が歳を重ねてくると、屈折した自慢でもある場合も多いし、これから本当に老いていくことへの明確な予兆でもあるから、その怖さに対して、どこか目を背ける効果があるのではないか、とも分かってきた。  その一方で、いくつになっても元気です、というような「スーパー高齢者」の人たちは、確かにいて、ただ、それ

読書感想 『書く仕事がしたい』 佐藤友美  「ライター志望者の本当の必読書」

   noteを書き始めて、もうすぐ2年になる。最初の目標である「365日連続更新」も、一応は達成した。ただ、少し冷静になれば、そのような成果を上げている人は、思った以上に大勢いるはずで、だから、当然だけど、何か変化が起こるわけもない。  それでも、どこか気持ちの中ではっきりしたことがあった。  書くことを仕事にしたい。  その望みのようなものが、どのような形になるのか分からないものの、そこへ向けて進もうと秘かに決めた。    そう思ったものの、個人的には、昔ライターを

読書感想 『少年の名はジルベール』 竹宮惠子  『一度きりの大泉の話』 萩尾望都  「人と人とのこと」

 竹宮惠子と萩尾望都。  そんなに作品を知らなくても、少女マンガ、というジャンルの中での「伝説的」な存在として、とても遠くて大きい人たちだった。そして、確か、二人は同世代で、同時期に、少女マンガの世界を変えたと言われているくらいは、知っていた。  だから、その昔の時代の話を文章で書いた、ということを知って、意外だった。さらには、この二人の「伝説的な人たち」が書いていることが、かなり違っているのではないか、という話題にまでなった。  その出来事は、もう50年も前のことだっ

読書感想 『批評の教室』 北村紗衣 「批評の民主化のためのガイドブック」

 批評が、どういうものか、分からない。  時に怖くもあって、文章を書くことはできたとしても、批評というジャンルは「頭のいい人たちだけのもの」という印象が強い。    批評といわれる文章を読むと、評論との違いが、いつも分からず、ただ、それを学ぶことを考えただけでも、拒絶する壁のようなイメージが立ち上がり、気持ちがあとずさりしてしまっていた。  それでも、何かについて書くことは、全て批評なのかもしれないと思いながらも、そこに近づくための目安が分からなかった。  だから、「批評

読書感想 『思いがけず利他』 中島岳志 「“人のため”の本質」

「利他」という単語をあえて使わなくても、「人のため」ということは、ずっと気になっていて、気にしていることを広言するのも、微妙な恥ずかしさや、後ろめたさがあった。  それは、世代や個別な感覚によって違いはあるにしても、「人のため(利他)」と「偽善」という言葉を、完全に切り離すことが難しいと考えていたせいもあった。  ただ、そのことを改めて考えるようになったのは、家族の介護を始めて、私などよりも、もっと自然に「手を差し伸べる人たち」に出会うようになったせいだった。家族だから、