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読書感想(おちまこと)

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2021年12月の記事一覧

読書感想 『だまされ屋さん』 星野智幸  「人間関係の可能性の拡張」

 妻が先に読んでいて、とても面白いと言っていた。  途中で、すごく顔をしかめていたので、その理由を聞いたら、登場人物に嫌悪感を抱いていたらしいが、それだけリアルに描かれているようだった。  そして、終盤に向けての展開が、意外だった、と感心と共に語っていた。  すごく魅力的な小説に思えたので、内容は教えてもらわないようにして、自分も読んだ。  妻と、ほぼ同じような感想になった。 『だまされ屋さん』 星野智幸  家族の話だった。  そして、その家族は、小説ではよくあるよう

読書感想 『独学大全 ------ 絶対に「学ぶこと」をあきらめたくない人のための55の技法』  「学ぶための相棒」

 介護を始めて、自分自身が病気になり、仕事も辞めて、先が何も見えなくなった時、もう中年といわれる年齢だった。ある時、何もないけれど、せめて少しでもまともな人間になりたいと思った。  その時に始めたのが、読書だった。  恥ずかしながら、それまでに本を読む習慣が身についていなくて、それから、気がついたら、随分と時間が経って、本を読むことは生活の一部になっている。  これまで「独学」を続けていたと思っていたから、「独学大全」という本が、外出もままならないコロナ禍の時期に出版され

読書感想 『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』 笛美 「気づいたあとも、踏みとどまり、戦い続ける記録」

 その出来事はニュースで知った。  一人のツイートから始まったことが、政策に影響を与えたのではないか、という話だった。  それは、自分からはとても遠かった。  その「笛美」と名乗る女性が本を書いたこともラジオで知った。  その内容について話されている言葉も聞いた。  それは、自分とは縁が薄い話に感じた。 『ぜんぶ運命だったんかい おじさん社会と女子の一生』 笛美   読んだら、読む前に抱いていた印象とは、まったく違った。  自分が昭和生まれの男性で、この著者の困難に対し

読書感想 『おんなのことば』 茨木のり子 「生活と地続きで、同時に遠くからの言葉」

 詩、特に現代詩は、自分の中にとても深く潜るか。もしくは、とても遠い宇宙へ意識を運ばせるような作業が必要な印象があって、だから、どこか覚悟が必要だったり、時間や場所を確保しないと、といった思いにもなる。  もしくは、詩や現代詩を読むには、ある種の訓練が必要ではないか。といった気持ちと、だから、自分には読む資格みたいなものがないのではないか、と微妙な後めたさを感じることもある。  それでも、言葉になっていないぎりぎりの場所に、詩人という人たちはいて、そのことで、世の中の何か