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読書感想(おちまこと)

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2021年10月の記事一覧

読書感想 『正欲』 朝井リョウ 「とてもフラットな視点の強さ」

 この作家は、自分の生きていく速度に合わせて、時代のドキュメンタリーを書き続けているようにも感じる。  ただ、そんなことを断言できるほど、全部を読んでいないので、本来ならば語る資格もないのだけど、「何者」「スター」そして「正欲」と読むと、自分の年齢に合わせたものを記録するように書いているのではないか、と思えてくる。 「桐島、部活辞めるってよ」は映画を見た。もう高校生がはるか遠くになってしまった世代にも、そこに「スクールカースト」が、どうしようもなく存在することまで感じさせ

読書感想  『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?』  和田靜香 「政治を考える本当の意味」

    複数のメディアで評判を聞いて、読みたくなった。  それは、著者の立場が、自分と比較的近くて、そういう人が政治家に話を聞いていく、という構造が、政治を分かりやすくしてくれるのではないか、という期待があったからだ。  つまりは、どこかで「答え」という情報のために読もうとしていたのだけど、実際に読んだら、社会に生きている一人の人間と、政治家という一人の人間が、格闘するように対話することで、まだ見えない答えを「考える過程」が描かれている、密度の濃い作品だった。 『時給は

読書感想 『君は永遠にそいつらより若い』 津村記久子 「手を差し伸べる人」

 著者の、他の作品を最初に読んだ。「この世にたやすい仕事はない」(リンクあり)。 「バランスのいい大人」という印象が残る作品だった。  ただ、登場人物には、それぞれの個別で複雑な背景があり、存在に説得力があった。  最近、他の作品が映画化されるという話を聞いた。  以前から、一度は読みたいと思っていたので、ミーハーなきっかけであっても、やっぱり読んでみようと、改めて思った。 「君は永遠にそいつらより若い」 津村記久子  タイトルには、不穏さが潜んでいると感じるけれど、読み

読書感想 『百年の女 「婦人公論」が見た大正、昭和、平成』 「男性の変わらなさの歴史(でもある)」

 雑誌には、その時の「今」がある。  後で見たり、読んだりすると、何が書かれているか分からないほど、もしくは、その時の新しさが、とても古くなって、自分が「いい」と思ったことまで、なんだか少し汚れてしまうような気持ちになったりする。  ただ、それは、10年の単位の話であって、「100年」になると、完全に歴史になって、見え方が違うと思うのだけど、そんなに続いた雑誌はほとんどない。  だから、「婦人公論」が「100年」を迎え、それを振り返る企画があるのを知って、すごく頭がいい

読書感想 『「普通がいい」という病』 泉谷閑示 「心の問題の総合知」

 エビデンスという言葉が聞かれるだけでなく、それが重視されるようになって、「心の問題」についても、エビデンスが強く求められるようになった印象がある。  その一方で、心について、スピリチュアルな方向へ振り切っている「世界観」も増えているような気もする。  これは、それこそエビデンスがあるわけでもないけれど、大雑把な印象としては、心の問題は、「合理と非合理の極端な両極」に分かれて語られているように思う。もしくは、「分かりやす過ぎる」か、「とても難解」という両端で、その中間が減