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読書感想(おちまこと)

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2021年8月の記事一覧

読書感想 『人新世の「資本論」』 斎藤幸平 「理想をあきらめないための思考」

 少し前に読んだ書籍があって、何か納得できないような気持ちになった。その著者がテレビ番組に出ていたのを見る機会があった。肩書きが、経済思想家だったのに、改めて気がついた。  その人が画面越しとはいえ、話すのを見ていた。その話の中で、その書籍の印象が変わっていった。マルクスの、まだ発見されていない凄さを語っているだけではないことは分かった。  そうすると、勝手なものだけど、書籍も、「固定化した理想」を描いたものではないのも、分かった気がした。 人新世の「資本論」   斎藤

読書感想 『その悩み、哲学者がすでに答えを出しています』  「考え続けるための入り口」

 すごく知識があるはずの人が、びっくりするほど「差別的」なことを語ったりすることがある。それは歴史的な大虐殺に関わった人たちも、豊かな教養があったと言われているのだから、今さら、驚いたりすることでもないのかもしれない。  ただ、ふと、そうした人たちの知識や教養の中に「哲学」はあったのだろうか、と思うことがある。ナチスに協力的であったと言われる「哲学者」もいるのだから、そんなに単純なものではないとは思うけれど、「生きるとは何か?」「正義とはどういうことか?」「死はどんな意味が

読書感想  『ぼそぼそ声のフェミニズム』 栗田隆子 「絶望の手前で、支えてくれる言葉」

 いつものことだけど、フェミニズムという言葉のある書籍を紹介するときに、ためらいがあるのは、自分が昭和生まれの男性、という、どこか最も遠い存在だと思っているせいもある。  本当の意味で理解できることは、これから先もないのだろうけど、現在のように、コロナ禍もあり、絶望が近い時ほど、この著者の言葉は、とても必要な気がしたので、今回は、紹介させてもらうことにしました。 『ぼそぼそ声のフェミニズム』   栗田隆子 「ぼそぼそ声」というタイトル通り、全体の文章も、「自信満々の大声」

読書感想 『東京1950年代』・『東京、コロナ禍』 「70年をつなぐ2冊の写真集」

 写真には過去が写っている。  だけど、その時は現在そのもので、ただ写った瞬間から過去になって、時間は止まらないことを、返って強く意識する。そのことを、若い時から、はっきりと意識しているように思えたのが、写真家の「ヒロミックス」だった。  ただ、時間がたっても、「現在がそこにある写真」が存在することを、「東京1950年代」を見て(読んで)改めて分かったような気がした。(もちろん、今なら、ヒロミックスの写真も、そう見えるかもしれない)。 「東京1950年代」  長野重一 写