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読書感想(おちまこと)

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2021年5月の記事一覧

読書感想 『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』 上間陽子 「魂のこもった調査の記録」。

 こうした書籍を読むと、時間をかけての丁寧な取材(調査)は、アカデミックな研究者の仕事になっていくのだろうか、と思う。  それは、ジャーナリズムでのノンフィクションが、どれだけ困難な状況にあるのか、といったことをいろいろな場所で知るたびに、微妙な気持ちにもなるけれど、それでも、これだけのすごい聞き手がいることは、読んでいてわかったし、それは読者にとっては嬉しいことでもあった。  1972年、沖縄県生まれ。琉球大学教育学部研究科教授。専攻は教育学、生活指導の観点から主に非行

読書感想 『映画を撮りながら考えたこと』 是枝裕和  「すべてを語れる凄さ」

 この人の凄さ、というのは分かりにくい。  というよりは、自分の狭い見方では全体が捉えられないほど、存在が大きいのかもしれない、と思うようになったのだけど、この本を読んで、カンヌのパルムドールという結果だけでなく、そこに至るまでの過程が凄いことを、少しだけ分かったような気がした。  ここには「映像のレシピ」が惜しみなく書かれている。だけど、誰もが、同じように仕上げられるわけでもないことも、分かったと思う。 『映画を撮りながら考えたこと』 是枝裕和  読んでいる感触は、オー

読書感想  『愛と家事』  太田明日香   「時代が動かない場所から」

 読んでいて思い出したのが、「82年生まれ、キム・ジヨン」(リンクあり)だった。  安直な比較は、両作家に失礼だとは思う。ただ、偶然だけど、この「愛と家事」の著者も1982年生まれで、二十歳になった時は、すでに21世紀にも関わらず、作品の登場人物の経験の数々が、もっと昔のことのように感じ、そして、同時に、そう簡単に時代は変わらない、という事実も突きつけられる、ということが似ているように思えた。  それは、私のような昭和生まれの男性には、こうした作品を語る資格はないと思いな

読書感想  『Neverland Diner. 二度と行けないあの店で』 都築響一 「必要で正しいノスタルジー」

 誰もが思いつきそうで、実際には誰も実行しないような企画を、いつも形にして、それを長く続けてきて、そして、その興味の広さと、深さと、健全さと、知性のために、いつも品の良さを感じるのが、編集者・都築響一氏の「仕事」だった。  この「仕事」も、ありそうでなかった企画だと思った。 「Neverland Diner. 二度と行けないあの店で」  都築響一  読んでいると、いろいろなことを思い出す。そんなに「行きつけのお店」があるわけでもなく、常連と呼ばれた記憶もほとんどなく、知っ

読書感想 「令和GALSの社会学」  『考え続けることのカッコ良さ』。

 薄々感じていたのだけど、20代や30代(という区分けが粗いとしても)は、相当に真面目で優秀な人が一定数いるのではないか、と思うようになった。  それは、ポジティブな理由だけではなく、この国全体が沈んでいく途中で、そこに生きていって、その後、ここにいるか、それとも外へ出ていくかも含めて、どうするか?を真剣に考えるのであれば、そうならざるを得ない、というような切羽詰まった結果ではないか、とも思っていた。  最近、読んだ本で、そのことが確認できたように感じた。 「令和GAL