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読書感想(おちまこと)

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2020年11月の記事一覧

読書感想 『首里の馬』 高山羽根子 「有用性の向こう側」

 芥川賞と直木賞の予想と、その選考結果について書評家の2人が話し合うラジオ番組があって、それは、とても率直で、取り上げられた小説を読みたくなるような話が繰り広げられていて、ここ数年聞くようになった。  文学という世界から見たら、自分のしていることは、にわかファンみたいな行動なのだと思うし、読みたくなる、といっても、そんなに全部は読めないし、作品によっては、ラジオで聞いていた時のほうが面白いこともあった。  とても遅いとは思うのだけど、小説を語ることも、当然だけど、それは一

読書感想 『モヤモヤの正体 迷惑とワガママの呪いを解く』 尹雄大  「問い続け、考えをやめないことが生み出す力」

 子供の頃から聞かされていた「人の迷惑にならないように」という言葉があって、「人って、誰だろう。あなたのことでは?」というようなことを思っていたが、それを問うのは一種のタブーだったようにもどこかで感じていた。だから、問い続けることは、できなかった。  だけど、どこかで、この妙な「圧力ワード」は、自分が成長していく中で、なくなっていくのではないか、とも思っていた。それは、世の中には「まともな大人」も多いはず(リンクあり)だから、そうした人たちが考えてくれて、この「迷惑をかけち

読書感想 『しかし…―ある福祉高級官僚 死への軌跡』 是枝裕和 「妥協しない選択で、初めて開く道」

 仕事をしている人であれば、締め切りや納期に追われるようなことがまったくない、ということは考えにくい。そして、同時に、こんなことを言われたことがないでしょうか。 「今回は、まずは仕上げることを優先させてください。次にもう少し時間の余裕がある時になったら、もっと質にこだわってください」。  もしくは、かなりベタなことですが、作品もしくは商品に関して、こんな言われ方をされたことはありませんか?  「まずは、今、売れ筋のモノを作ってください。成功してから、その時に自分がやりた

読書感想 『愛という名の支配』 田嶋陽子 「全人類のためのフェミニズム 」

 おそらくある年代以上の人にとって「田嶋陽子」という人は、テレビに出てきては、ずっと怒っている人、というイメージだと思うし、怖くて、ずっと感情的な印象で、そのまま、私も、最近までは忘れていた。  だけど、それもつい最近になって、私と同じように、いつも怒っている人、という印象だった人が田嶋陽子氏の著作を読んで、それがまったく変わった。申し訳ない、といった文章を読んだことがあって、そういえば、昔の一時期は頻繁にテレビでは見ていて、だけど、その文章をちゃんと読んだことはないと思い