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読書感想(おちまこと)

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2020年8月の記事一覧

読書感想   『認められたい』   熊代亨  「承認欲求で悩むすべての人に」

 「承認欲求」という言葉を、本当によく聞くようになったのは、たぶん、ここ10年くらいだと思うが、それは、スマートフォンが、何十年も前からあるように思えるのと同様に、「承認欲求」は、必要不可欠のもののように語られるようになってきた、という印象がある。  ただ、それだけ重要度が増したものの、その語られ方は、両極端であるように思う。     その「承認欲求」をどうやって満たすのか?といった、言ってみれば「強者のノウハウ」のように語られるか。     もしくは「承認欲求」を持つこ

読書感想 『持続可能な魂の利用』  松田青子   『「おじさん」消滅の正統性』

 残りベージが少なくなった時に、ここまでの、この小説の蓄積を考え、とても面白かったのだけど、ここからどうするのだろう、と思っていたら、ある意味では、全部を書ききったけれど、でも唐突な印象で終わった。  この感じは、その小説も、きちんと読めたかどうか自信はないものの、どこか「百年の孤独」の読後感を思い出すような、すごく広げた世界が一気に姿を消すような虚無感があった。希望が示されたけれど、絶望が残された。それでも、感想を一言でいうならば、シンプルに「とても面白かった」だった。

読書感想 『時が止まった部屋 遺品整理人がミニチュアで伝える孤独死のはなし』   小島美羽   「伝わるのは、人が生きていたこと」。

 テーマは孤独死。  そうした部屋の遺品を整理する仕事があって、そこに従事する女性。  さらに、その女性が若く、現場をミニチュアで制作している、というエピソード。  それぞれの要素の組み合わせがしっくりこない。  それは、もちろん、自分の視野や思考の狭さのせいもあるのだけど、人の死というトピックを扱うことで、自己顕示欲を満たすような人物だったら嫌だな、と勝手に思って、ラジオ番組で、その女性が話し始めるまでは、警戒心が立ち上がっていた。  声の響きが柔らかった。自分が前に出

読書感想 『新写真論 スマホと顔』 大山顕 「〝生命体〟になったかもしれない写真」

 「写真論」という題名がついているが、ここでは、どうすれば「いい写真が撮れるか?」とか「どのような写真が優れた写真なのか」といった話は、ほとんどされていないと思う。ただ、厳密にいえば、それに近いことが書かれていたりする部分もあるのだけど、この著者は、「写真に一番近いところに居続ける存在」という意味での「写真家」で、その見せてくれる世界は、たぶん未知のものではない。見ているはずなのに、見えなかった視点を、示してくれているだけなのかもしれない。 カメラの変化の歴史  空気のよう

読書感想 『どうして就職活動はつらいのか』 双木あかり  「切実で貴重な21世紀日本の記録」。

  とても個人的なことだけど、就職活動を2回したことがある。  1度目は、最初に大学を卒業する前。  2度目は、中年になって、資格を取る前後。 2回の就職活動  最初は、バブル前だったので売り手市場だった。内定を5つもらった、という話も珍しくなかった。ただ、個人的には苦戦をした。大学4年生の春くらいから始まっていて、10月には決まっている人が多かったのだけど、私は面接でよく落ちて、決まったのは12月になっていた。最初に春夏用のスーツを買ったのだけど、就活用に、冬用のスーツま