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読書感想(おちまこと)

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2020年7月の記事一覧

読書感想 『コロナの時代の僕ら』 パオロ・ジョルダーノ  「不安の中での知性のあり方」

  2020年に入ってすぐの頃、1月くらいを思い出そうとしても、とても遠くに感じる。そして、今とはまったく違う社会だったのだけど、それも含めて、すでに記憶があやふやになっている。  それは、私だけが特殊というのではなく、今の日本に生きている人たちとは、かなりの部分で共有できるように思っている。 海外の人たちへの関心の薄さ  最初は、そんなに大ごとではなかった。  新しい病気がやってきそうだけど、そんなに危険ではない。あまり致死率が高くなく、いってみれば、毎年、流行を繰り返す

読書感想 『ルポ 虐待 大阪二児置き去り死事件』 杉山 春   「モンスターは、いない」

 2010年に、その事件をニュースで知った時は、ちょっと恐かったのは覚えている。  今は、「大阪2児餓死事件」とも言われているらしいのだけど、まだ幼い我が子を部屋に置き去りにし、20代前半の母親が部屋の扉にテープを貼っている、という事実を知り、その人は「モンスター」だと思った。それは、自分が理解できない恐さを感じていたせいだったと思う。  その事件を題材に本が書かれていたのも、うっすら知っていたはずだった。ただ、こうしたセンセーショナルな事件をもとにした作品は、それをつくる

読書感想 『彼女は頭が悪いから』  姫野カオルコ  「暴走するプライドの醜さと恐さ」

 2016年に東大生の強制わいせつ事件があった。  そのことに関しては、そんなに強い関心もなかったので、忘れていた、というよりも、2000年代の早稲田での事件の方がもっと質が悪く見えたし、その後も、医学部生が、同じような事件を起こした、といったニュースは時々聞いていたので、その中の一つとして、記憶の中にうもれてしまったのかしれない。「東大」ということで注目は高いのだろう、といったくらいの気持ちしかなかった。  それは、ある意味で失礼な関心の持ち方ではあったと思うのだけど、そ

読書感想 「食べたくなる本」 三浦哲哉 『「食」への健全な距離感』。

 これまで、「食べること」に関する文章への、個人的な記憶は、著者自身の豊富な食の経験。もしくは、食に対する常人ではない感覚を、秘かに、もしくは大っぴらに表現されるので、自然に身構えてしまい、興味深いにしても、どこか遠いところの話になってしまい、食べてみたい、という気持ちが薄くなることが少なくなかった。  もしくは、この店が安くてうまい。さらには、一度は行っておくべきこのレストラン、といった文章が並んでいるガイドブック的なものは、紹介されている飲食店が主役であり、その場所や名