マガジンのカバー画像

読書感想(おちまこと)

252
読んだ本の感想を書いています。
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

読書感想 「古くてあたらしい仕事」  島田潤一郎  『希望の足跡』

 ここ何年か、とても少ない人数で出版社を立ち上げ、それが経営的にも成り立っていることを聞くことが増えてきたように思う。  さらに内容的にも評価もされ、確かに他では読めそうもなかったり、もしかしたら、他の場所では、企画会議の段階で、「売れない」という判断をされて、そのまま書籍化されないかも、といった本が、形になっているのを見るのは、図書館利用が中心だから、本当の読者とは言い難い人間にとっても、なんだか嬉しく、どこか励まされることでもある。 「古くてあたらしい仕事」  この本

読書感想 『立体交差/ジャンクション』 大山顕 『「見続けること」の困難と幸福』

 東京都大田区主催の建築関係の表彰式みたいなものがあり、そこで講演会があり、大山の話を初めて聞いたのは2018年だった。その前に著書も読み、ある程度の予想があり、だから、聞きに行ったのだけど、事前の想像をはるかに超えて、面白かった。そんな粗い言い方しか出来ないくらいに、やや「硬め」の行政主催の講演会とは思えないくらいに、時間も過ぎるのが早く、あまりにも気持ちが高揚してしまい、質問までしてしまった。 「第2回大田区景観まちづくり賞表彰式等の実施 」 「興味」の持続の成果  

読書感想 『生きてく工夫』 南伸坊    「昭和のスタイルで、現在の老いを描く」

 久しぶりに、南伸坊の本を、それも2019年だから、最近、出版された本を見つけて、読んだ。  そこには、「昭和軽薄体」といわれたままの文章があるように思った。  私にとっては、バブルの頃(1980年代末)に絶頂を迎えていた印象のある文体だった。  なつかしい気持ちになった。 「生きてく工夫」 昭和軽薄体とは、1970年代末から1980年代初頭にかけて、椎名誠や嵐山光三郎らが築き上げたといわれているが、個人的には、嵐山の文末で「なのである」を「なのでR」と表記していたのを

読書感想 『21世紀の資本』 トマ・ピケティ 「200年分の事実」

 自分にとって、経済学は、遠かった。  経済と無縁で暮らしていくことも、現代では不可能なので、そうやって、分からないままな事に、後ろめたさと、劣等感と、何かを損しているのではないか、というような浅ましい気持ちも、ずっとあった。  同時に、「経済」をなめらかな口調で語る人たちへの、不信感も、ずっとあった。言葉に責任をとらない印象もあったせいだった。ただ、それは、自分の屈折した劣等感も関係しているから、そこで、またもやもやして、考えを止めてしまいがちだった。 経済用語への不信

読書感想   『ブスの自信の持ち方』 山崎ナオコーラ  「本当にフェアな社会を望むこと」

 容姿について語る時に、基本的には、男女問わず「美しい人」については触れやすい。また、容姿に関しては、「誰でも悩む」という言われ方もされがちで、それは、本当だと思うのだけど、そういう一般化した話になりすぎると、視界がぼんやりしたような気持ちになる。  さらには、別にブスじゃないよ、とか、誰でも美しくなれます、みたいな言い方も、本当かもしれないけれど、それだけだと、違うのは、なんとなく分かる。ただ、このことについて、男性である私が、より触れにくくなるのも、それは個人的な問題だ