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読書感想(おちまこと)

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2020年5月の記事一覧

読書感想 『ゆるく考える』 東浩紀 「知性の力の、重要性」

 自然に「頭がいい人」は存在する。東浩紀という人を、初めてトークショーで見た時に、圧倒的なものを感じた。理解力と要約力、しかもその反応が的確で早い。それは、生まれながらに速く走ることができる人間と同じような気配だから、見ていて、気持ちがよかった。  しかも、自分の頭の良さを、人に誇るような作業をせず、ただ、目的に向かって、自分の能力を奉仕させている、「頭がいい人」に思えたし、そのことから生じる、話をしている相手への自然な敬意もあるように見えた。  こういうことは、どこか「

読書感想 『たとえ世界が終わっても その先の日本を生きる君たちへ』    「普遍の人」 橋本治

 個人的な話で申し訳ないのですが、若い時から本をほとんど読んでいなくて、中年になってから読書の習慣がついたような、ちょっと恥ずかしい人間ですが、振り返ると、とても少なくても、何人かの作家の本は読み続けていて、そのうちの一人が橋本治だということに、改めて気がついたのが、この本を最初に読んだ2017年の頃でした。  若い時には熱心に読んでいて、いつまでも読めると思っていたのに、自分が歳をとったり、あまり豊富とはいえなくても経験を積んだりすると、その熱心に読んでいた作家に対して、

読書感想 『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』 若林正恭  「21世紀の成熟の方法」

 著者の若林は、芸人であり、オードリーというコンビを組み、漫才をし、毎週土曜日に、オードリーとして深夜のラジオを続けている。  その放送は、若林と春日俊彰の二人が、それぞれ長い時間トークを担当し、しかも、オープニングも30分以上続いたりもする。  アイドルグループのAKBの総監督が、高橋みなみだった頃、これからステージに行く時の円陣の中で、〝みんな、オードリーさんのラジオ聴いてる?トークの勉強になるよ〟と、言ってくれているそうですが、みたいなことを、若林がそのオープニング

読書感想 「震美術論」 椹木野衣 『「世界」の見え方が変わる本』

 東日本大震災に強く影響を受けた2017年出版の作品でもあるし、美術についての著作でもあるのだけど、今のように「天災」に似た感染症に脅かされる毎日でこそ、読むべき本ではないか、とも改めて思う。  450ページを超え、値段も高めであるし、自分は図書館で借りて読んだから、よけいに推めることにもためらいがあるが、読んだあとは、今、自分が住んでいる場所…大げさかもしれないが「世界」…の見え方が変わってしまうほどの影響を受ける可能性もある。少なくとも、私は、それ以来、日本という場所に