劇団温泉ドラゴン『悼、灯、斉藤』
温泉ドラゴン『悼、灯、斉藤』をNHKのプレミアムステージで観ました。
観て良かったです。いい舞台でした。
作:原田ゆうさんの個人的な体験を基に書かれたということもあってか、母を喪った3兄弟の反応が三者三様であったところに、リアリティーを感じました。
言葉少なに悲しみを受け止める長男・倫夫(筑波竜一さん)は目が印象的でした。その目にはお母さんが映っているんだろうなあと思わされました。
一見、てきぱきと手続きを進めているけれど、実はほかの兄弟に対する嫉妬を抱えていた次男・周司(いわいのふ健さん)。わだかまりを吐露する場面がとても印象的でした。最後にお母さんの愛情を感じることができて本当に良かった。
三男・和睦(阪本篤さん)。葬儀までは割と大丈夫そうにしていたのに、葬儀で誰よりも泣いてしまう・・・こういう人、いるよなあと思いました。
葬儀後、この三男に、高校時代の元恋人・生田目恵(枝元萌さん)がかけた言葉
いい言葉だなあ。死別ってすべてを失ってしまうのではなくて、故人との思い出を大切にする時間の始まりでもあると思うのです。
お母さんが亡くなった現在の家族の様子と、お母さんが生きていた頃の様子を交互に行ったり来たりする構成になっており、
このお母さん(大西多摩恵さん)というのが、茶目っ気にあふれ優しくちゃきちゃきした感じの魅力あふれる人物として演じられていたから余計に、観ているこちらも、お母さんへの懐かしい気持ちを共有することができました。
お母さんは、子供たちから「お母さん」ではなく「佳子さん」と下の名前で呼ばれており、個人的には、最初は違和感がありました。
これは原田さんが「照れ」ゆえに実際のご家族にそうしているからのようですが(なんかかわいい)、
私には、「子供たちにとっての母」というだけでなく、「夫にとっての妻」「同僚にとっての心強い仕事仲間」「息子の元恋人にとっての頼れる友人」などなど、交わってきた他者とそれぞれ充実した人間関係を築いていた、一人の幸せな人間としての姿を象徴しているように思えました。
大切な人が亡くなるのはさみしいことなのだけど、誰かと思い出を共有できるのはとても暖かいことです。そしてそのタイミングでときに、これまで打ち明けられなかった気持ちを言葉にできたりします。
そしてその時の思い出は、大した思い出じゃなくたっていいのです。「それでね、私が⾔いたいことは何だろうていう話」で終わってしまうような、些細なことで十分なのかもしれません。