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テアトロコント vol.64 切実『朝の人』

テアトロコント vol.64にて、切実『朝の人』を観て、とても面白かった!

作:ふじきみつ彦
演出:岡部たかし
出演:岩谷健司、岡部たかし、富田真喜
劇場:ユーロライブ
観劇日:9月23日(土祝)14:00


話の概要

新潟県・佐渡島のバス停留所。
一人の観光客・早川(岩谷健司さん)がバスを待っている。そこに、同じく観光客の杉浦・兄(岡部たかしさん)がやって来る。杉浦・兄は、どこか挙動不審。そして、早川に話しかけ、自分は早川のことを知っていると告白する。いつも、自宅のある東京都・東中野で早川を見かけるというのだ。杉浦・兄と早川は、生活リズムが同じようだと。杉浦・兄は、特に朝の出勤時によく早川を見かけることから、早川のことを勝手に、「朝の人」と呼んでいると告げる。一方、早川の方は、杉浦・兄のことを認識していなかったと答える。
都内ならばともかく、新潟県・佐渡島で早川に遭遇したという奇跡に、杉浦・兄は興奮し、自分が把握している、日頃の早川の様子を話しまくる。その内容は執拗なストーカーのごとく詳細(早川はいつもイヤホンをしているだの、いっとき無線イヤホンにしたけどまた有線に戻しただの、どこそこのセブンイレブンも時々使うだの)。その上、2人の家が近いことまで判明し、ますますテンションが上がる。早川は引き気味だが、杉浦・兄の頼みで、一緒に記念撮影までする。

杉浦・兄には妹がいる。実は、杉浦・妹も、近所に住んでおり、夜9時に東中野のサミット(スーパー)で早川を見かけるようだと、杉浦・兄は早川に報告する。また、早川がよく、音楽を聴きながらピアノを弾く真似(=エアーギターならぬエアーピアノ的な)をしていることから、妹は「ピアノの人」などと呼んでいることを合わせて告げる。

ピアノ
(以下、大意)                    
杉浦・兄「ピアノ、本当に弾けるんですか?」     
早川「一応弾けます。子供の頃習っていた程度ですけど」
杉浦・兄「なんだ、弾けないのに弾くフリしてるのかと」
私(同じことを思った・・・。)           


遅れて、杉浦・妹(富田真喜さん)が登場する。杉浦・妹は、早川の存在に驚き、兄が早川に話しかけたと聞くとまた驚くが、どこか嬉しそう。そして、杉浦・妹も、早川と話す。早川は、杉浦・兄のことは認識していなかったが、杉浦・妹の方は認識していたと話す。そして、先ほど杉浦・兄が早川に向かってしたように、把握している杉浦・妹の生活の仔細を語る。早川も先ほどの杉浦・兄のようにテンションが上がってくる。また、先ほど杉浦・兄に色々と言われたときは正直めんどうくさいと思ったが、今は杉浦・兄の気持ちが分かると告白する。
早川と杉浦兄妹、互いに距離縮まり、にこやかな雰囲気になる。

別行動をとっている母と電話するため、また、面倒くさい気持ちにさせてしまった早川にお詫びとして飲み物を買ってくるため、杉浦・兄が退出。バス停留所には、早川と、杉浦・妹の2人きりとなる。色々話すうち、実は、お互い同時に、お互いのことを認識していたタイミングが何度もあったことが発覚し、大いに盛り上がる。早川がいつも聴いている音楽を聴かせる流れで、成り行き上、いわゆる「イヤホン半分こ」状態になるなど、イイ感じになる。

ペットボトル

(以下、大意)                     
杉浦・兄「(ご希望の飲み物は)ほうじ茶…ですよね?」 
早川「wwwwww はい(笑)」             

杉浦・兄が戻ってくる。杉浦・妹が、「初めてお話するのにこんなこと言うの変なんですけど…」と照れながら切り出す。まるで、好意を告白する流れのような状況とセリフ。しかし、後に続いたのは、「実は近々結婚する」という報告だった。年を取っても一人でいる早川の姿を見ていて、老後が心配になり、ダラダラと付き合っていた彼氏との結婚を決意できたと。だから、早川には感謝している、とダメ押し。
早川はそれを聞いてダメージを食らい、イヤホンを装着して杉浦兄妹をシャットアウトしてしまう。杉浦兄妹は親と合流するため、停留所を離れる。一人残された早川。暗転しつつ、暗闇の中、見えるか見えないかギリギリの瞬間に、涙をぬぐう。

感想

まず、「日常生活でよく見かけるけれど、名前も肩書も知らない人と、旅先で偶然に遭遇する」という設定で、ここまで面白いお話にできるのが、本当にすごいと思った。一言一言のフレーズやリアクションがおかしみに溢れていて、客席からはしょっちゅう笑いが起こっていた。

自分の生活の様子を、他人に知られているという状況は、おそらく大多数の人にとって大変気味の悪いことだと思う。特に本作の早川のように、自分の方は相手を認識していないにも関わらず、という非対称な状況では。
私も、知人が自分の家のとても近所に住んでいて、そのことを住み始めてしばらくしてから知る、という経験をしたことがある。私の場合、その知人から、私を目撃したことがある、と言われたわけではない。しかし、「最近、外で変なことしてないよな?」と思わず最近の行動を振り返ってしまった。なんで、悪いことをしたわけでもないのに、こんなに後ろめたい気持ちにならないといけないんだ?!
この上、観察までされていたとしたら。想像するだけで恐ろしい。

また、本作のタイトルロール「朝の人」=早川の、岩谷健司さんの醸し出す哀愁や切なさが、たくさんの笑いの中で浮かび上がってくる、そのことが最も印象に残った。

岩谷健司さん、このお話を象徴するような、笑いの中にある切なさ、を全身で表現しており、この方の投稿に大きく頷いてしまった。

前半、杉浦・兄からの怒涛の「観察結果」報告を受けて困惑する様子や、後半、杉浦・妹の登場後からの楽し気な様子、最後、杉浦兄妹を遮断して、一人になって暗転していく際の悲哀に満ちた様子など、どれをとってもとてもとても最高だった。

個人的には、本作で重要なアイテムだったイヤホンもそれを象徴していると思った。
早川が使用していたイヤホンは、有線で、しかも音質やデザインにこだわったものではなく、おそらくiPhoneなどを購入した際におまけでついてくるような、ごく普通の白いイヤホンだった。それがあまりにもしっくりきた。
2023年の今、出先で有線イヤホンを使っている人にはめったにお目にかかれない(※有線イヤホンユーザーを特段ディスる意図はありません。私も有線イヤホンを使うこともあります)。そんな中、かたくなに有線イヤホンを使い続ける、しかも、一度無線イヤホンにしたけれどまた有線イヤホンに戻ってきているという設定があまりにも似合っていた。使い慣れた馴染みのものにこだわってしまう感じが、論理的に上手く説明できないが、いかにも早川っぽかった。

また、岡部たかしさん&富田真喜さんの杉浦兄妹もとても面白かった。
前半、杉浦・兄が、一方的に知っていた早川に遭遇し、そのことにテンションが上がって、これまでの自分の「観察結果」を饒舌にしゃべりまくる場面では、物理的にも早川との距離を詰める様子も相まって、とても面白かった。イメージなのだけど、止まっている早川の周りを、テンションが上がってピョンピョンと跳ねるウサギのような印象を受けた(実際に跳ねているわけではない)。

同じ切実&ふじきみつ彦さん作の作品で、過去に演劇で上演したものをコンテスト投稿用に映像版として収録した『つばめ』や『墓場まで』という作品をYouTubeで観たことがある。このときも、「少しだけ人との距離の取り方がおかしい人(岡部たかしさんが演じる人物)が、言わんでもいいことをわざわざ言い、比較的常識的な人(岩谷健司さんらが演じる人物)を大いに困惑させる」という状況がとても面白かった。今回も前半部分では、似た様子があって、やっぱりとても楽しめた。


また、後半では、杉浦・妹が、早川を期待させるような言動を立て続けにとっていく。早川を前に照れる場面など、とてもかわいらしかった。その言動はとても純粋で、悪意なく、結果的に早川を傷つけたことには無自覚だった。悪意がないからこそ、結果的に早川の気持ちを「上げて落とす」ことになった事態がより残酷になっていて、最後の早川の切なさにつながっていた。

大昔からきっとそうなのだろうけど、どうして他人が悲しい事態に陥っている様を見て、人は笑ってしまうのか…。改めて考えると、ホントひどい話だ。
いつか自分の身にも降りかかるかもしれない悲劇に備えて、本能的にその悲しみを緩和させるための、予防薬のようなものなんだろうか。

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