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おばけ

女の子はおばけが苦手でした。
女の子のお母さんは、女の子のお父さんがオバケになったとよく言って聞かせていました。
女の子は何のことか分かりませんでしたが、そんな話をする時のお母さんの顔が怖かったので、オバケは怖いものだと思うようになりました。

ある日 女の子が外に遊びに行くと人通りの多い道で猫のおばけのような子がひなたぼっこしていました。

猫のおばけは時々大きなあくびをして「にゃー」と大きな声でないていました。

人通りの多い道でしたが、猫のおばけの姿は
みんなには見えないようで、大人はみんな知らん顔して通り過ぎて行きます。


オバケは怖かったのですが、
あまりに猫のオバケが気持ち良さそうだったのと、
ひとりで寂しかった女の子は
勇気を出して猫のおばけに「一緒に遊ばない?」と声をかけました。
猫のおばけは何も言いませんでしたが、
「そう、ざんねん」と女の子が歩きだすと猫のおばけはついてきました。

歩いて行くと女の子は公園につきました。
公園には蝶々を追いかけている、オオカミのおばけのような子がいました。
オオカミのオバケは「ぼくのえもにょ、えもにょ」と言いながら
一生懸命蝶々を捕まえようとしていました。
オオカミのオバケはどうやら虫が苦手らしく、近くに来ると蝶々から逃げてしまって、どうしても捕まえられずに困っているようでした。
女の子は田舎の家で育ったので虫が怖くありませんでしたし、虫取りは得意だったので、オオカミのオバケの代わりに蝶々を捕まえてあげました。
でもオオカミのオバケは蝶々を触ることができなかったのですぐに逃してしまいました。
女の子は「一緒に遊ばない?」と声をかけましたが、オオカミのオバケは「わかんない。」と言いました。
女の子は「そう、ざんねん」と言って歩き始めると、オオカミのオバケもついてきました。

しばらく歩いていくと
川がありました。
女の子が住んでいる町には
きれいな川がありました。

その川の中には
泳いでいるおばけがいました。

おばけはこちらに気付くと
何やらブクブク言い出しました。
女の子は怖かったのですが
このおばけの言っていることを聞いてみることにしました。
「ブガブガブガ、ブガガブガガ、ブガガラガー」
おばけの口は半分水の中なので
何を言っているのかはわかりませんでした。

それでもしばらく「うん、うん」と聞いていると、
そのおばけは水から上がってきて、

「カララ、カラ」と言いました。
口の中の水がなくなっても何を言っているかはわかりませんでしたが、
こっちを見てニコニコしているので。
「いっしょにあそぶ?」
と聞くとバケツの中のジャガイモを1つくれました。
おばけは川の中でジャガイモを洗っていたようでした。

さらにしばらく行くと、川の中州で何やら大声で騒いでいるおばけがいました。
そのおばけはどうやらとても怒っているらしく、これでもかと言わんばかりに絶叫していました。

「どうしたのと聞いて見ても」理由は話してくれませんでしたが、ちょうど雨が降ってきたので、一緒に雨宿りをしました。

さっきまで静かに流れていた川の水は茶色に色を変えて、轟々と流れています。
空は曇り、お日様は見えなくなってしまいました。
川の中州で雨宿りをしていると、水かさがどんどん上がってきて、女の子は閉じ込められてしまいまいました。
雨が弱まる気配がなかったので、女の子はどうしたらいいかわかりませんでした。

大声を出すお化けはますますパニックになり、叫び続けています。他のオバケたちも不安な顔をしています。
「なんでこんなことになったのだろう?」と女の子は考えました。
「全部自分のせいなんじゃないか」とも考えました。

すると1人が川に石を投げました。
「ボチャン」
女の子も落ちていた石を拾って投げました。
「ボチャン」
もう1人が大きい石を拾って投げました。
「ボッチャーン」

小さな小舟に乗って荒れ狂う龍と戦うように、女の子たちは川に石を投げました。
しばらく川に石を投げていると、石の大きさによって水の音が変わることに気づきました。
小さい石を投げると「ピチョン」大きい石を投げると「ボドン」
平べったい石を投げると、水面で跳ねることも知りました。

そんな事をしているうちに、だんだん雨は上がり、水かさも少しづつ下がっていきました。
女の子たちは、モンスターを倒した時ように得意になって、一緒に喜びました。

「おーい」
と、お迎えの大人の声が聞こえました。

気がつくとおばけ達は、普通の服を着た普通の子どもで、それぞれお父さんやお母さんに連れられて家に帰っていきました。


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