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モグラとカラス

あるところに、モグラがいました。
モグラはずっと穴の中で暮らしていて、目があまり良くありませんでした。
穴の中は快適で、モグラの眠りを邪魔する動物もいなければ、蒸し暑い暑さも、凍えるような寒さもありませんでした。

ある夏の日、モグラは聞いたこともないような大きな音に目を覚ましました。
急いで音のする方に行って見ると、モグラの家に大きな穴が開いて、眩しい光が差していました。

生まれて初めて見る光に、最初は怖くて隠れていましたが、乾いた草や、甘い花の匂いに誘われて、モグラは外を覗いて見ることにしました。

モグラの目はあまり良くないので、そこに何があるのかは、はっきりとは分かりませんでしたが、慣れ親しんだ穴の中では嗅いだことのないようないい匂いがしました。

モグラはこの穴を塞がずに、置いておくことにしました。
そして、時々この穴から顔を出して、外に匂いを嗅ぐことが、モグラの日課となりました。


ある日、いつものようにモグラが穴から顔を出すと、バサバサと何やら音が聞こえてきました。
モグラが警戒して穴の中から耳をすませていると、
「ねえ君」と声がしました。
モグラが声のする方を見て見ると、そこには穴の中のように真っ黒な黒い影が、じっとこっちを見ていました。

モグラは驚いて顔を引っ込めましたが、しばらくしてもそこにいる雰囲気だったので、「どうしたの…?」と聞いて見ました。
すると、
「いや、ちょっと羽を怪我してね。ちょっとここで休ましてもらうよ。」
と、黒い影は答えました。

話を聞いて見ると、黒い影はカラスで、羽を怪我して飛べなくなったから、怪我が治るまで隠れる場所を探しているようでした。

かわいそうだったので、モグラは穴の入り口を広げて、カラスが入れるようにしてやりました。

カラスは空から見た外の世界の話をしてくれました。
モグラは穴の中にいる生き物や、時々聞こえる不思議な音、土や石の話をしました。

カラスは朝になると、ピョンピョン跳びながら、地上を歩いて、餌や落ちている不思議なものを拾ってきてくれました。
カラスはキレイなものが好きで、キラキラ光るものを見つけては拾ってきて見せてくれましたが、モグラはあまり目が良くないので、よく分かりませんでした。

モグラは穴の中にいる生き物を捕まえて、カラスにあげました。

2匹はお互いの違いを面白がって、仲良くなりました。


カラスの羽の怪我がだんだん良くなって、また飛べるようになっても、2匹は仲良しでした。

しかし、カラスが地上に住む必要がなくなると、やがて2匹は次の生き方を選択する必要が出てきました。なぜなら、カラスにとって地上で生活することは本来とても危険なことだからでした。


モグラの選択肢

ーそれぞれの世界で生きて、時々遊びに来るカラスを待つ。そしてカラスが飛べなくなったら、飛べなくなったカラスとまた地上で生きる。→6

ー飛ぶ練習をして、自分も飛べるようになる。もしくは、飛べないまでも、木に登って、カラスの巣で暮らす。→4


カラスの選択肢

ーリスクを覚悟して、このまま地中でモグラと暮らす。→5

ーそれぞれの世界で生きて、時々モグラに会いに来る。→6


間の選択肢

ー2匹の生活の中間地点を探し、そこで新たな生活を始める。→7

ー空と地中の中間地点として海へ向かう(AIの選択)→8


4

モグラはカラスの話を聞いているうちに、カラスの生活している世界が見て見たくなりました。
そして、カラスが元気になったタイミングでカラスの巣に連れて行ってくれるように頼みました。
カラスの巣は見晴らしのいい丘の上の杉の木の中ほどにありました。
そこには強い風がビュンビュン吹いていましたが、遠くの景色が見渡せました。

モグラは長い間、暗い穴の中にいたために目は良くありませんでしたが、風が運んでくるいろんな匂いにワクワクしました。

モグラはこんな巣に住んでいたら自分も目が良くなるんじゃないかなと思い、この巣にちょっと住んでみることにしました。
ただ、隙間風は寒かったので、土を壁に塗ったりして、ちょっと穴の中を快適にすることにしました。

完成した新しい巣は不思議な格好をしていましたが、とても居心地が良く、モグラが飛べるようになることや、目が良くなることやはありませんでしたが、2匹は仲良くカラスの巣で暮らしました。


5

カラスは地上に住むことにしました。
乾いた巣や強い風の吹く見晴らしの良い空の世界よりも、暗くて湿っていて暖かく小さな生き物が沢山いる地中の世界を選びました。

空を飛ぼうと思えばいつでも飛べるし、地中の家はもしかしたら木の上の巣より安全かもしれない。
エサも穴の中を探せばいくらでもいたし、正直、居心地は悪くありませんでした。

ちょっと窮屈でしたが、モグラも喜んでいるし、そのまま2匹は仲良くモグラの穴で暮らしました。


6

2匹はそれぞれの世界で暮らすことにしました。
カラスは元いた巣に帰り、モグラは自分の穴の中に残りました。
生まれ育った環境で過ごすことは、お互いにとって息をすることのように当たり前のことでした。

そこにはいつも通りの日常があり、見慣れた仲間たちがいました。

時々思い出したようにモグラは空を見上げ、嬉しいことや悲しいことがあるとカラスはモグラの穴を訪ねました。


7

2匹はお互いの違いを認識して、その真ん中を探すことにしました。
住む場所もお互いが本来住む場所の真ん中が良いということになり、いろいろな場所を探した結果、切り立った崖の斜面に穴を掘ることにしました。

そこには見晴らしの良いテラスも、暗くて温かい寝室もありました。
新しい生活はどこか懐かしく、とても新鮮でした。

しかし、危険も隣り合わせでした。
2匹は他の仲間たちからは孤立し、生活も今までとは違い、全て新しく開拓する必要がありました。


8 

彼らは海岸にたどり着きました。彼らは海を見て、驚きました。海は空と地中の間にある大きな水の世界でした。海は青くて白くて黒くて、土の匂いや虫の匂いがしませんでした。海は美しくて不思議でした。

「これが海か?こんな世界があったなんて!」 「海ってすごいね!こんな世界を見せてくれてありがとう!」 「私たちは海に住もうか?海は私たちの世界になれるかな?」 「私たちは海に入ってみようか?海は私たちを受け入れてくれるかな?」

モグラとカラスは手をつないで、海に入りました。彼らは水の中を泳ぎました。彼らは魚や貝や珊瑚を見ました。彼らは波や潮や風を感じました。彼らは幸せでした。

しかし、彼らはすぐに息苦しくなりました。彼らは水の中で呼吸することができませんでした。彼らは水面に戻ろうとしましたが、遅すぎました。彼らは力尽きて、沈んでいきました。


モグラとカラスの物語に正解はありません。
どの選択肢が正しかったかは誰にもわかりません。
同じ選択肢でも、その過程により天国にも地獄にもなり得ます。

2匹ほどではありませんが、誰もが自分の世界を持っており、自分の世界に安らぎと、外の世界に憧れを少なからず感じています。

どんなに好きな仕事でも、全ての工程が好きにはなれないように、負ける事に慣れ、妥協して生きる事こそ社会性なのかも知れません。
しかし、元々理解し得ない他者同士が、喧嘩せずなんとかお互い許容し、共存する事ができる事は、それだけで奇跡のような事なのだと思います。

日々我々は賢い選択を迫られますが、いくら石橋を叩いて、間違わないでおこうと思っても、選んだ道が正解だったかどうかはわかりません。
そもそも違う世界に住む我々が、幸せに生きてゆくために必要なものは、過程を楽しむマインドセットなのかもしれません。


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