書評#7「東京オリンピック」文学者の見た世紀の祭典
1964年当時の日本を代表する40名の作家たちによる東京オリンピック観戦記。三島由紀夫から大江健三郎、小田実まで、多様な信条を持つ作家たちが、東京オリンピックという一つのイベントを描いた貴重な記録。文学者ならではの洞察で、現代に通じるオリンピックの本質が語られている。
たとえば、、、
「オリンピックにあるものは、国家や民族や政治、思想のドラマではなく、ただ、人間の劇でしかない。その劇から我々が悟らなくてはならぬ真理は、人間は代償なき闘いにのみこそ争うべきであり、それのみが人間の闘いであるということである」
「優勝者のための国旗掲揚で国家吹奏をとりやめようというブランデージ(註:当時のIOC会長)提案に私は賛成である。国が持っている原爆の数が金メダルの数に比例するような昨今のオリンピックでは、参加者のユニットを国家という形で考える限り政治性というものを完全に脱色する訳にはいくまい」
「人間が魔につかれて愚かな戦争を起こさぬ限り、人間の美と力と尊厳の祭典は所を変え、きり無くくり返されていく筈なのだ。聖火は消えず、ただ移りゆくのみである。この祭典は我々に、人間がかくもそれぞれ異なり、またかくも、それぞれが同じかということを教えてくれた」
これは、後に東京都知事になり、2020年の東京オリンピック招致を決断した石原慎太郎による考察である。
2020年大会は彼の目にどのように写ったのだろうか。今となっては伺うすべもない。
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