見出し画像

杉並区障害者週間(7日目):障害者の虫歯は、自己責任ですか?

 2024年の杉並区障害者週間のしめくくりに、私自身の口腔ケアが障害によってどのように影響を受けたかを述べます。

障害者になると、歯が磨けなくなった

 2005年に肢体不自由になり始めてから、歩行困難の次に直面した日常生活の最大の困難は、歯磨きでした。「ブラシを歯に当てて動かす」という動作が難しくなり(出来るけれど疲れる)、コンディションのよい時でも「きちんと磨けるのは、歯2本か3本」という感じになりました。
 もちろん、そんな状態が続けば虫歯が出来ます。2005年前半、未治療の虫歯はなかったのですが、その次に歯科を受診した2007年、虫歯は6本になっていました。なぜ2年も開いてしまったのかって? 障害で収入が激減して、国民健康保険料を資格証にされない程度に支払うのが精いっぱい、歯科の自費負担は到底無理だったからです。障害者手帳が交付され、係員に「歯科を含めて医療費自費負担は減免されますよ」と案内されて、はじめて歯を治療できる状況になったのでした。
 歯科医が口腔内をチェックした直後に言った「痛みや違和感をガマンしちゃダメですよ」という一言は、17年後の今も忘れられません。

虫歯の増加に勝てない治療

 とはいえ、車椅子で通うことのできる歯科の選択肢は、2007年当時はほとんどありませんでした(2024年現在、新規開院する歯科医院は概ねバリアフリーになっていますが)。大雨や雪で身動き取れなくなると、キャンセルせざるを得ません。それでも受け入れてくれる歯科医院を見つけ、なんとか通いはじめたのですが、治療のスピードより虫歯の増加スピードの方が速い状況が数年続きました。歯科医からはフィリップスの電動歯ブラシを勧められたのですが、慢性的金欠病につき手が出ません。

 購入できたのは、2013年に『生活保護リアル』(日本評論社)を刊行し、その印税が入った時でした。
 12月6日まで、Amazon Kindle版が7割引、770円です。

電動歯ブラシ、歯間ブラシ、マウスウォッシュで虫歯の新規発生を抑制

 購入した電動歯ブラシ、歯間ブラシ、そして寝る前の歯みがき後のマウスウォッシュで、虫歯の新規発生はほとんどなくなりました。5年間で2本ですから、まあまあの成績でしょう。今のところ、差し歯や入れ歯は1本もなくて済んでいます。相変わらず、治療が追いつかない傾向はありますが。

自分は何とかなったけど、生活保護や要保護の方々は?

 問題が1つ解決すると、マトリョーシカのように次の問題が現れるものです。私の場合は、「生活保護利用者や、生活保護の資格があるのに利用できていない方々の問題は、まったく解決していない」という形でした。
 生活保護を利用している方々に対する医療機関からの悪口で最も多いのは、歯科界隈の方々からの「どれほど指導しても歯みがきしない」ではないかと思います。確かに、口腔の状態の悪い方は少なくありません。すべての歯を失った男性と会話していて、ふとしたはずみに互いの年齢を知ることになり、なんと同い年だったということもありました。「生活保護を利用し始めて、はじめて虫歯の治療ができた」という体験談も、非常によくあるものです。皆さん「虫歯くらいなら」と我慢してしまうんですよね。
 では、虫歯や歯槽膿漏で口腔内の状態が悪くなっている方々は、どうすれば、自分の口腔の健康状態を維持できるようになれるのでしょうか? その人が無理なく口の中を清潔に出来る用具類を提供し、「寝る前に歯みがきして心地よく寝付くことができ、起きたときに口の中に不快感がなくて心地よい」という状態をご自分で簡単に実現できるようにする方向性は、どこかにあるでしょうか? 私は、見たことがありません。「健康増進は被保護者の責務」ということでビシバシ指導するという話なら、あちらにもこちらにもありますけど。
 こういう問題を解決するためには、政策を誰がどう考えてどう決定しているのかを明らかにする必要があります。というわけで、いわゆる自己責任論がどう生活保護政策に反映されているのかを、博士学位論文でねちっこく検討しました。でも、今のところ、「博士にはなれました」と「博論が本になりました」で終わっています。その間にも、生活保護を利用する方や生活保護さえ利用できていない方の口の中で、虫歯が増え、歯槽膿漏が重くなっているのでしょうね。

 12月6日まで、Amazon Kindle版が75%引きです。迷っている方は、ぜひこの機会に。

福祉の見返りに、屈辱や人権制約を受け入れさせる必要はないはず

 生活保護は利用していない障害者であっても、自己責任論で福祉の利用から遠ざけられ、「困るのはアナタの自己責任」「困っているとも言えないように、もっと困らせて痛めつけて弱らせてやろう」というような扱いを受ける場面はあります。私自身にも、そういう経験は数多くあります。ましてや生活保護なら、生活保護法に「被保護者の責務」が定められていますから、なおさらです。
 でも本来、福祉は福祉であって、必要な人が使って苦痛や不幸から解放されるためのものです。さらに幸福感や充実感を自然に味わえるようになれば、言うことなし。それは、その人の人権が保障されている状態です。国や地方自治体や地域社会が、その人の人権を保障できている状態です。障害者福祉や生活保護が、「福祉のお世話になるからには」と何かを制約される理由になってよいわけはありません。

アベノマスクより、電動歯ブラシ配りを

 まずは、生活保護を利用している方々および必要としている方々全員に、国が無料で電動歯ブラシと歯間ブラシとマウスウォッシュを配布するくらいのことをしてはどうでしょうか。そういう方が1000万人いらっしゃるとして、1人あたり2000円とすれば、200億円です。公金の「バラマキ」ではありますが、効果の見込める「バラマキ」です。もちろん転売されたりはするでしょうけど、そういう悪用は見越して、性善説だけではないけれども性悪説にも傾きすぎない運用を試行錯誤する価値はあると思われます。

いいなと思ったら応援しよう!

みわよしこ
ノンフィクション中心のフリーランスライターです。サポートは、取材・調査費用に充てさせていただきます。