ChatGPTのカスタム指示(Custom Instraction)機能を使って、短編ホラー小説を書かせて遊んでみる
前回の記事の続き。
もっと長文にしたかったので色々と情報を漁ったところ、良い記事を見つけたので、その方法を取り入れてみることにした。参考にしたのは以下の記事である。
ChatGPTの「Custom Instractions」という機能を用いて、アウトラインから小説化するというメソッドになる。
そこで、まずはこんな感じにプロンプトを与えてアウトライン化する。実話怪談風より、まずは無難にホラー小説で。
今回はこんな感じに出力された。これはコピーしておく。
舞台:日本の奥多摩の深い山中にある廃れた神社
第1章 - 森の声
体験者である大学生・石井健太が友人たちとキャンプをする目的で奥多摩に到着する。
廃れた神社を発見し、その場所でキャンプを始める。
初日の夜、石井は山から聞こえてくる不気味な叫び声と動物らしき何かの影を目撃する。
他のキャンプメンバーも同様の体験をし、一晩中ひどい悪夢にうなされる。
第2章 - 神社の秘密
石井と友人たちは神社の周りを探索する。
神社の社務所には、奥の間に古い文献と一緒に封印されたはずの地元の悪霊・山姥(やまんば)についての記述を発見する。
文献によれば、山姥はかつてこの地を恐怖に陥れ、多くの犠牲者を出したとされている。
夜になり、不可解な出来事がエスカレート。石井の友人の一人が消え、代わりに血塗られた人形が置かれている。
第3章 - 山姥の呪い
石井と友人たちは警察と連絡を取ろうとするが、全く通信がつかない。
さらに、周囲の動物や自然さえもおかしくなり、全てが山姥の呪いに影響を受けているようだ。
何かが石井たちを狙っていることを実感し、恐怖とパニックが広がる。
石井が古い文献に書かれていた儀式で山姥を封じようとするも、事態はさらに悪化。山姥自体が姿を現し、石井たちに呪いをかける。
第4章 - 永遠の呪縛
石井と残った友人たちは何とか山から脱出するが、呪いは解けずに日常生活に影を落とす。
石井が取り憑かれた影響で、家族や友人、職場にも次第に不幸が広がる。
石井は山姥によって呪われたこの現実に絶望するが、文献によれば山姥の呪いは永遠に続くとされている。
石井は自らを疎外された世界でどう生きるのか、その決断を下さねばならない。
この物語は、神秘的な自然と深い人間の恐怖が交錯する日本の奥多摩を舞台に、強力な邪悪な存在が人々の運命に深刻な影響を与える様を描き出します。最後に救いの手が差し伸べられることはなく、石井はその呪いによって永遠に縛られたままとなります。
これを受けて、ChatGPTのCustom Instractionを呼び出して、設定を行う。Custom Instractionにはテキストボックスが2つあるので、上には以下のプロンプトを、下にはコピーしておいたアウトラインを貼り付ける。
スクリーンショット的には以下のような感じ。
1章分ずつ出力するので、終わったら「続けて」といえば次の章を書いてくれる。
さて、結果は以下の通り。意外とそれっぽくて楽しい。
第1章 - 森の声
"もう一度考え直せばよかった。あの山に足を踏み入れるんじゃなかった。"
石井健太は、顔に無数の傷跡を持つ20代後半の大学生。彼の髪は黒く、瞳は暗い茶色。普段は人当たりが良いが、目の奥には疲れが見える。石井はこの日、東京都の遠く離れた奥多摩の山へキャンプに来ていた。同行していたのは、大学の友人である田中と佐藤。田中は短めの髪と陽気な笑顔を持つ陽キャラ、佐藤は長身でショートカットの髪、そして少しクールな性格。
三人は疲れ果てた顔で、緑豊かだがどこか暗く、重苦しい森を抜け、その先に広がる神社の境内にたどり着いた。神社はかなり古く、壊れかけの鳥居がギシギシと音を立てるような不気味な場所だった。田中と佐藤も不安そうな表情で周りを見渡していた。
"ここでキャンプって大丈夫かな…"田中は不安げにつぶやいた。
"大丈夫だろ、ただの神社だよ。しかも放置されてるしね。"石井はテントを設営し始めた。
夜が更けてきた。焚き火で食事をし、三人はテントに入った。しかし、その夜、山から微かに聞こえる女性のような叫び声と動物らしき何かの影に石井は目を覚ました。体が自然と硬直する。声は人間のものではなく、どこか異様な響きを持っていた。
"あれ、何だろう…"佐藤が半ば眠りながらぼんやりとした声で呟いた。
"哲学的に言えば、人は未知への恐怖で動かされることが多い。でも、未知ってのは魅力でもあるんだ。"石井は佐藤の問いに答えるが、その言葉に自分でさえも説得力を感じなかった。
"石井、それって何か意味あるの?"田中は不安そうに問いかけた。
"いや、ただの哲学的な話だよ。でも、この森、この神社、どこかで何かが私たちを見てるような気がする。まるで、虚無が具現化したかのような…" 石井の言葉は重く、三人の心に突き刺さった。
その後、石井たちは一睡もできず、朝まで目を覚ましていた。夜が明け、それぞれが持っていた不安が少し和らいだかと思った瞬間、田中が口を開いた。
"俺、夢で石井が何かに取り込まれる場面を見たんだ。夢なのか現実なのか、もうわからない。"
"それはきっと、ただの夢だよ。" 石井は自分自身を納得させるように言ったが、心の中で何かが確信に変わっていた。それは、この旅がただのキャンプでは終
わらないという確信だった。
石井は後に、この経験についてよく振り返ることになる。しかし、そのたびに彼が感じるのは後悔と、深い恐怖だけだった。
[ここで、記者としての私が石井に問いかけます]
"石井さん、あれから何が変わりましたか?"
"変わったこと? それは簡単だ。私は、恐怖というものを体全体で感じ、その重さに圧倒された。そして、どんなに哲学的な考えや論理があっても、それが何の意味もないことを知ったんです。"
次に、私たちはその神社の歴史を追い、さらに多くの証言を集めてみることになる。しかし、それが果たして石井たちに何をもたらすのか。果たして、その答えは見つかるのだろうか。そして、それは我々にとって、どれほど恐ろしいものなのか。
第2章 - 絶望の歌
"後悔しかない。この場所で何かを感じた瞬間、逃げるべきだったと、毎晩考えています。"
石井は神社について更に調査するため、地元の図書館で古い資料とにらめっこをしている。彼の隣には田中が座っている。田中の顔色は青白く、目には疲労と不安が滲む。それでも、手元には村の歴史について書かれた資料を一生懸命に読む。佐藤はこの日、彼らとは別行動をとっており、神社の周囲をカメラで撮影している。
"ここ、見てみ。この神社、明治時代にはすでに多くの失踪事件や不可解な出来事が報告されているんだ。" 石井が指を走らせた行には、まるで人の心を凍らせるような言葉が並んでいた。
田中は資料をじっと見つめた後、深くため息をついた。"どうしようもないね。読むほどに、僕たちが触れたべきじゃない何かに近づいているような気がする。"
石井は目を閉じた。"理解とは、闇を照らす光だと思っていた。でも、闇自体が光を吸い込んでしまう場合、その理解は無力だよね。"
"それって、僕たちはどうすればいいの?" 田中の声には、もはや絶望しか感じられなかった。
夜になると、図書館から出て神社に戻った石井と田中は、佐藤が撮影した写真を見て驚愕する。その中には、赤く輝く何かの目らしきものや、闇に埋もれたような人影が確認できた。
"これは、誰?" 田中は写真に映った人影を指さした。
"それが分かれば苦労しない。" 佐藤は淡々とした口調で言ったが、その目には隠しきれない恐怖が宿っていた。
夜が更けていくと、神社周辺はさらに暗くなり、夜の静寂と怪しい雰囲気が空気を圧迫する。その時、彼らが耳にしたのは、甲高い女性の歌声だった。その歌声は美しいが、聞いていると内側から何かをえぐり取られるような恐ろしさを感じる。
"あの歌声、何?" 佐藤がひと言漏らした。
"どういうわけか、その歌声は絶望そのものを歌っているように聞こえる。" 石井の言葉は重く、彼自身もその事実に怯えていた。
その後も、神社とその周辺で起きる不可解な出来事は増え続け、石井、田中、佐藤はますます絶望に打ちひしがれていく。しかし、真実に近づくことで得られるものがあるとすれば、それは新たな恐怖と絶望だけだった。
[ここで、記者としての私が再び石井に問いかけます]
"最後に、他に何か言いたいことはありますか?"
"言いたいこと? それは、もしこの話を聞いて、何かを感じたなら、その場からすぐに去ることです
。時には無知が、最も賢い選択なのですから。"
そう言って石井は話を終えた。しかし、その言葉がどれほど多くの人々に届くのか、そして、それがどれほどの恐怖と後悔を防ぐのかは、誰にもわからない。
第3章 - 暗黒の祭り
"後悔と恐怖が私たちの日常を支配している。明らかに何かがおかしい、それに気づいた瞬間に逃げるべきだったと…そう思い続けています。"
この言葉は、旅館の老人、佐々木氏からだ。彼はこの旅館で生まれ育ち、その歴史と伝承に詳しい。白い髪に顔に深い皺、体は曲がっているが目は鋭い。彼の衣服は古いが、何か尊厳を感じさせる。部屋は暗く、照明がチラチラと不規則に点滅する。
村田夫婦と石井、田中、佐藤がこの老人の話を聞きに行くことにした。この神秘的な場所で何が起こっているのか、その核心に迫ろうという目的が彼らを動かしている。
"この神社、それとこの旅館には昔から言い伝えられる伝説があります。邪悪な精霊が、神社を中心にこの土地を支配しているという話です。" 佐々木氏はじっくりと語り始める。
田中が尋ねた。"その精霊は、何を求めているんですか?"
佐々木氏は苦笑する。"求めているというか、彼らが何を望んでいるのかは不明です。ただ、この土地に住む我々は、ある種の信仰をもって接しています。それがこの土地での穏やかな生活のための、呪いとも言える鍵です。"
石井は佐々木氏の言葉に深く頷いた。"しかし、その信仰が変わり始めた瞬間、この場所の平和も乱れるんですよね。"
"まさにその通り。" 佐々木氏の口から出たその言葉は、部屋に充満する暗い空気をさらに重くした。
その夜、またしても不可解な現象が旅館で起こる。今度は職員が行方不明になり、その部屋からは妙な香りとともに謎の符が発見された。旅館の中は悪化する一方で、住んでいる人々の心にも影を落としていた。
佐藤が佐々木氏に聞く。"このような事態が起きると、通常どういった対処が行われるのですか?"
佐々木氏はしばらく黙って考えた後、"正直なところ、このような事態は前例がない。ただ、今からでも遅くない。何らかの方法で邪悪な存在を封じなければ、この旅館は永遠に安息を得ることはありません。"
石井は頷き、村田夫婦と目を合わせた。その瞳に映るのは、避けられない運命と戦う覚悟だった。
"もう時間がない。" 石井は堅くその言葉を口にした。"何が正しいのかわからないけれど、何もしないよりはマシだ。"
その瞬間、彼らが感じたのは、まるで全ての生命エネルギーが抜け落ちていくような感覚だった。それは、邪悪な存在が完全に目を覚ました証拠だろうか。この瞬間から、彼らの命運は一変し、取り返しのつかない闘いが始まる。
[ここで私が佐々木氏に問いかけます]
"これが最後の質問になりますが、もし、これからこの旅館に足を踏み入れる者がいたら、何を伝えたいですか?"
佐々木氏はしばらくの沈黙の後、"ここに来るなら、心の
準備をしなさい。そして、何が起ころうと、後悔せずに生きていく覚悟を持っておいてください。そうしないと、結末は想像を絶する恐怖でしかありません。"
この言葉で佐々木氏は話を締めくくった。残されたのは、言葉にできないほどの重苦しい空気と、未来に何が待っているのかわからない不安だけだった。
[続く]
第4章 - 終焉の狭間
"後悔せずに生きていく覚悟、ですか。" 田中は佐々木氏の最後の言葉を繰り返し、呟いた。"でも、そう簡単にはいかないでしょう?"
村田夫婦、石井、田中、佐藤は佐々木氏の言葉を胸に、旅館の図書室に足を運ぶ。ここには古文献が眠っており、その中には邪悪な存在を封じる方法が記されているという。
図書室の扉を開けた瞬間、皆の目に飛び込んできたのは、ほの暗い空間とそれを覆い尽くす古い書物の山だった。一歩足を踏み入れると、その場の空気が重く変わった。まるでこの部屋自体が彼らを試すかのように。
"ここに何かがある、それを感じますか?" 石井はその場に立ちすくみながら、微妙な声で問いかけた。
"感じます、というか、見つけなければならないものがここにあるのを知っています。" 村田夫婦は共に頷き、この場の緊張感を高める。
佐藤が棚から一冊の古い本を取り出すと、その瞬間、部屋の照明がふいに暗くなった。心臓が急激に鼓動を高める音が聞こえた。
"これだと思います。" 佐藤の声が震えていた。
本の表紙を開くと、その中には独特な符文と図形、そして何らかの封印方法が詳細に記されていた。しかし、その文献を開いた瞬間、何かが解き放たれたような感覚に襲われた。
"ああ、もう遅い!" 石井が叫ぶと、突如として全ての扉と窓が閉ざされ、図書室は真っ暗になった。
その暗闇の中で、邪悪な存在が彼らの前に姿を現す。形容しがたいその存在は、室内の空気を凍りつかせ、皆の心に恐怖を植え付けた。
"どうやら、私たちは選ばれたようだ。" 村田夫妻はこの状況にも屈せず、文献に書かれた封印の言葉を唱え始める。
妙な歌声、掛け声、そして力強い意志。そのすべてが一点に集まり、邪悪な存在を包み込んだ。
"さようなら、永遠の眠りにつくがいい!" その言葉とともに、邪悪な存在は暗闇に吸い込まれ、消え去った。
しかし、その後の旅館の安寧は永遠に失われていた。扉と窓は元に戻ったものの、時間と空間が歪んでいるような感覚が消えることはなかった。
"私たちは何を得たのか、それとも何を失ったのか。" 村田夫婦はお互いに目を見つめ、その答えを見つけられぬまま、旅館を後
にした。
そして、読者の心に残るのは、後悔せずに生きる覚悟が本当にすべてを解決するのか、それともこれは単なる始まりに過ぎないのかという疑問だった。
どちらにせよ、一つだけ確かなことは、何かが始まったこの場所では、もう二度と安らぎは訪れないだろうということ。それが、この物語の唯一の確実性だ。
[終わり]
感想
時々変な感じに筆が滑るけど、そこはプロンプトをもう少し詰める感じだろうか。ところで村田夫妻はどこから現れたんだ。というわけで、次の話の方が完成度は上かなぁ。
第1章:不穏な初体験
"後悔している。こんな場所で何を考えたんだろう、本当に後悔している。"
悠人の言葉は、京都の古い町家の中庭で消えた。彼はこの場所を選んで、東京から遠く離れた京都に移住し、カフェを始める計画を立てていた。悠人は三十代前半、身長は平均的で、黒い短髪がきちんと整えられている。ジーンズに白いTシャツ、スニーカーといったラフな服装が彼の日常だ。一見普通の男性だが、何かと人々を引きつけるカリスマを持っている。
"いい家だよね、ちょっと古いけど。中庭も素敵だし、観光客も喜ぶだろうね。" 友人の葵が言った。彼女は美容師で、その明るい赤毛と個性的な服装で、いつも目立っている。
"うん、でも最近、中庭で変なことが起きてるんだ。" 悠人は言いながら葵に向かった。
葵が続ける前に、中庭の小さな水たまりから、不思議な歌声が聞こえてきた。それは美しいが、どこか哀しみに満ちているようなメロディだった。
"聞こえる?それ、それが何日か前からなんだよ。"
"え、マジで?それはちょっと怖いわね。でも面白そう!"
悠人は不安そうな顔をした。"その上、この石を踏むと、笑い声のような音がするんだ。"
葵が石を踏むと、確かにその音が響いた。笑い声に似ているが、どこか不穏なものを感じさせる音だ。
"何これ、リアルに怖いわ。この家、大丈夫なの?" 葵が尋ねた。
"近隣の住人が言うには、「それは庭の番人だ」と。" 悠人は明らかに顔色が悪い。
"庭の番人って、何?"
"誰も正確には知らない。ただ、昔からこの家には庭の番人がいるという伝説がある。ただし、その存在を確認した人はほとんどいないらしい。"
葵は悠人の顔を見て、何かがおかしいことに気付いた。"大丈夫?"
"大丈夫じゃない、葵。最初は面白いと思ってたけど、もう怖いんだ。何がこの家に潜んでいるのか、それが分からない。"
ここで僕が独白しますが、この時点で悠人はまだ知らなかった。中庭、そしてこの町家全体が抱える深い闇を。そしてその闇が、彼自身にどれほどの影響を与えるのかを。
"だったら、なんとかしなきゃ。" 葵は言ったが、その瞬間、二人は中庭から聞こえてくる声に気づいた。
"待って……"
その声は何とも言えぬ哀しさと優しさを持っていたが、同時に不穏な空気も漂わせていた。それは確かに人の声であったが、何か別の存在のようでもあった。それは二人にとって確かな警告であり、この出来事が単なる奇怪な現象でないことを感じさせた。悠人は深くため息をつき、葵も顔色が青ざめた。
"ここは何が起こっているんだろう。" 悠人が呟くと、その言葉が空気に吸い込まれ、暗く、湿ったこの古い町家の中で消えていった。
第2章:呪われた中庭
"信じられないけど、時間が違うみたい。ここの空気は重たくて、息が詰まるような気がする。"
それはカフェの常連客、和也の言葉だった。和也は大学生で、普段はさっぱりとした性格の持ち主。スキニージーンズにグラフィックTシャツ、常にカジュアルな装いである。しかし、その日は顔に疲れと不安が浮かんでいた。
悠人がカフェをオープンしてから数週間が経ち、客足も順調に増えていた。しかし、中庭の奇怪な現象は収まるどころか、より多くの人々に影響を及ぼし始めていた。
"時間が違うって、具体的にどういう意味だい?" 悠人は和也に尋ねた。店内の木製のテーブルと椅子は、暗くて温かみのある照明で照らされ、ほっこりとした空間を作っていた。それに反して、中庭は薄暗く、何とも言えない緊張感が漂っていた。
"なんか、中庭に近づくと、心地よくない感覚がするんだ。ひどいときは、まるで時間がゆっくりと流れているような感じがして、他の客とのコミュニケーションが取れなくなる。"
和也の言葉に悠人は深く頷いた。店員たちもまた、同じような体験をしていた。一人の店員、彩花は、特に影響を受けていた。彩花はショートカットの髪型に、シンプルな黒のワンピース。普段は明るく、おおらかな女性だが、最近は表情が陰っていた。
"彩花、大丈夫?" 悠人が心配そうに彼女に尋ねた。
"あ、大丈夫ですよ。ただ、最近夜になると中庭から声が聞こえてくるような気がして…。それが気になって眠れなくなっています。"
"声って、何を言ってるの?"
"はっきりとはわかりませんが、私を呼んでいるような、誘っているような…。でも、それが何か嫌な感じがするんです。"
"もう、これはまずいな。" 悠人はつぶやいた。店の人気が高まる一方で、中庭の「庭の番人」の力も増していた。それはもはや一種の呪いとも言える現象で、誰もがその重圧に押しつぶされそうになっていた。
"庭の番人って何なんだろう…" 和也が呟いた。
"それが分かれば、何とかできるかもしれない。でも、今のところはただの伝説に過ぎない。" 悠人は和也の質問に答えたが、その顔には明らかな不安があふれていた。
その夜、店が閉まった後、悠人は一人で中庭に出た。薄暗い中庭で、小さな水たまりの近くに立ち、深く考え込んでいた。
"あなたは誰なのか?" 彼がつぶやいた瞬間、中庭全体が一瞬、暗闇に包まれた。
"ここは私の場所…"
その声はとても
古く、ひどく哀しいものだった。悠人はぞっとしながらも、次の手がかりを得たことに少しだけ希望を見いだした。しかし、その希望も束の間、さらなる恐ろしい現象がこのカフェと、この町に広がっていくことを、悠人はまだ知らなかった。
(次に続く)
第3章:庭の番人の正体
"私を誰だと思っているかしら?"
ある夜、悠人は中庭でその老女の幽霊を目撃した。彼が気づいたとき、老女は既に彼の目の前に立っていた。白い着物を纏い、目は空洞のようでありながらもどこか哀れみに満ちていた。彼女の顔は、長い間何も触れられていない古い鏡のように霞がかかっていた。
"あなたは…庭の番人ですか?"
老女は笑った。それはかすかな、しかし狂気を感じさせる笑いだった。
"そうよ、私がその庭の番人。この家に住んでいたころの私がね。" 彼女の声は泣いているようでもあり、笑っているようでもあり、その感情の振れ幅に悠人は戸惑った。
悠人はこの家の歴史に興味を持ち、地元の図書館や近隣の住人から話を聞くようになった。そしてついに、この老女がこの家に住んでいたこと、そして彼女が愛する人との別れを乗り越えるために中庭で死んだという伝説を知った。多くの資料と証言を元にして、悠人はその恐ろしい真実をついに明らかにした。
"それで、なぜ私たちにこれほど多くの困難をもたらしているのですか?"
老女は一瞬、何も言わなかった。その顔は泣きながらも何とも言えない安堵感で満ちていた。
"私が生きていた頃、この庭は私にとって唯一の逃げ場所だったの。そして今でもそう。あなたたちがここで何をしているかには関心がないわ。ただ、私がこの庭を守り続けたいだけなのよ。"
悠人は急に何を言っていいのかわからなくなった。この老女、いや、この庭の番人が繰り広げる奇怪な現象は、かつての居場所を守るためだけに起きていたというのか。
"私たちはどうすればいいのですか? この庭と共存する方法はありますか?"
老女は再び笑った。その笑い声は今度は明らかに狂っていた。
"共存なんてできるわけがない。ただ、私がこの場所を離れることができるのなら…それは別だけど。"
"それが可能なのですか?"
"もしかするとね。でも、そのためにはあなたが何を犠牲にするかを考えないといけないわ。"
悠人はその言葉に心底恐れを感じた。この庭の番人と呼ばれる存在が何を求めているのかはまだわからない。しかし、その犠牲が何であれ、それが今後この町にどれほどの影響を与えるのかを悠人は恐れていた。
そしてその日を境に、店内の雰囲気は一層暗く、重苦しいものとなった。客たちはますます中庭を避け、店員たちも次第に表情を失っていった。悠人はどうにかこの状況を打破しなければと考えていたが、その方法が見つからない。
老女、庭
の番人の存在は確かにその場所に根付いている。そしてその力は日に日に強くなっていくようだった。悠人はどうすればいいのか、もはやわからなくなっていた。
(次に続く)
第4章:取り返しのつかない結果
「どれだけ反省しても、後の祭りだよ。」
カフェは人気を博し、特に観光客には「この町家カフェの中庭は一見の価値あり」と謳われていた。しかし、その人気と引き換えに、悠人が最も恐れていた事態が現実となっていった。
一度は明るく賑やかだったカフェ内も、今は店員たちの顔に疲労と不安が色濃く表れている。特に夜のシフトに入っていた店員たちは、中庭から聞こえてくる不気味な歌声や囁きによって、明らかに眠れない夜を過ごしていた。
そしてついに、町全体に庭の番人の影響が現れ始めた。人々が交差点で立ち話をしていると、突如としてその場の空気が重くなり、話すスピードが遅くなる。あるいは、学校で子供たちが集まって遊んでいる最中、一人また一人と子供が不機嫌な顔をして帰っていく。その後、聞かれた子供たちは「中庭で遊ぶ気が失せた」とただそれだけ言っていた。
悠人は最後の手段として、中庭を封印しようと考えた。しかし、その計画を実行する前の夜、彼自身が庭の番人に取り憑かれるという最悪の事態が発生した。
眠りに落ちた瞬間、悠人の意識は中庭に引きずり込まれた。そこには再び老女の幽霊が現れ、彼女は言った。
「この庭は私のもの。そして今、あなたも私のもの。」
悠人が目を覚ますと、自分が寝ていたはずのベッドではなく、中庭の石畳に寝ていた。そして彼は何をする気力もなく、ただそこで目を閉じた。
町の人々は次第にその町家を避けるようになり、カフェは閉店となった。その町家は再び誰も住む者のいない、忌み場所となった。悠人の身体は発見されたが、彼の目は開いたままで、その表情は何かを強く望んでいるような、悲痛なものであった。
そしてそれ以後、町の人々は「庭の番人」の伝説に新たな一章を付け加えることとなった。それは、この庭が再び人々に開かれることはないだろう、という恐ろしい事実であった。そしてこの物語は、それ以上誰にも触れられることなく、老女の霊とともにその場所で永遠に眠るのであった。
(完)