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台湾ブルベル【その2】
台湾旅行のはずなのに、間違えてポケットWiFiの契約国をホングコングにしてしまった私達。
この際だからコンビ名をホングコングにでもしておこう。
そんなホングとコングの台湾観光はトラブルだらけのトラベルだった。
略して、『台湾ブルベル』 (ぇ🙄)
社員旅行2日目の朝、今日は自由行動の日。
「ホング、私ちょっとやばいかもしれない」
私は難しい顔をして友人ホングの肩へ手をかけた。
「え、どうしたん」
「また、きたかもしれない」
「うそ、マジか…」
ピピピ、ピピピ。
私は音の鳴ったそれを脇から取り出した。
『38.2℃』
やはり当たっていた。この気怠い感じと火照りの内側に潜むゾクゾクとした震え。
毎度恒例の高熱である。
私は長期休暇やイベント事になると発熱する癖があった。そして、この社員旅行も例外ではなかった。
私のバッグには体温計が常備されている。しかし、薬は持ってこなかった。
まだ日本にいた頃の私は元気だったため、もしもの時は現地で薬を買えばいいやと簡単に思っていた。
「ホング、観光地へ行く途中で薬局によって薬買わせて」
「それはいいけど、大丈夫なの?ほんとに行くの?」
せっかく台湾まで来ておいてホテルで寝てなんていられない。この発熱が感染症でないことくらい、これまでの経験で分かりきっていた。
「薬飲めば行ける」
こうして私達は『千と千尋の神隠し』のモデルとなった観光地『九份』へ向かうことにした。
我々ホングコングはポケットWiFiがないため、ホテルから街へ出れば連絡を取り合う手段がない。そして、スマホで何かを調べたりすることもできない。
それを考慮して私達はホテルのフレーウィフィで観光地までの行き方や路線などを事前に調べスクショした。
スクショの地図を頼りに駅へと向かい、駅内の薬局へ立ち寄った。
台湾の言葉は「台湾華語」で、全て漢字。しかし、よく分からない漢字も多く、読めそうで読めない。広い店内で解熱剤を探すのは時間がかかる。
「案ずるより産むが易し」
私は店員へ訊くことにした。と言っても日本語は通じないので、スマホのメモに『熱』『薬』と打ち込み店員へ見せた。
どうやら伝わったらしく棚へと案内される。適当に解熱剤と思しき薬を手に取り購入した。
箱裏の説明欄を見るがイマイチ用法用量が分からない。
とりあえず一錠だけ取り出した台湾の解熱剤は想像以上にデカかった。
分かりやすくいうと、親指の爪くらいの大きさ。
もし、これが普通だとすれば、台湾人の喉はかなりのバケモノ級だ。解熱と称して一般人を殺めたいのかと疑うレベルである。
私はなんとか死なずに熱だけが下がり命拾いした。
現地の方々に時々道を訪ねながら『九份』へと辿り着く。
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こうして、あっという間に帰る時間となった。
我々は小雨が振る中、駅へ向かうバスを待った。しかし、この観光客の多さも相まって、定時のバスは満員で乗れず、待てども待てども乗れそうなバスは来なかった。
「このままじゃ、電車間に合わない」
私は次のバスに意地でも乗り込もうとホングへ告げた。
次に来たバスはいくつか席が空いており比べ物にならないくらい余裕があった。
ラッキーと思い乗り込み空いている席へと座った。
次に止まったバス停で乗り込んできた乗客が私の席の前に立った。
彼女は困惑した様子で周りを見渡した。
「@¥&@%^€$*?」
彼女が私へ向かい何かのチケットを見せるようにして話しかけた。
私も困惑した。
どうやら指定席のバスだったらしく、私はカタコトの「ソーリー」を連呼しながら慌てて席を立った。
運転手になんとか事情を伝え、駅まで乗せてもらえることになった。そんなアホ2人が乗り込んだ事を数人のお客さんが察してくれて、ホングは空いていた席に座り、私はバスの入口のステップにタオルを敷いて座った。
無事に駅へ到着し、次は電車を待った。
ここでもかなりの人混みで、どの車両も満員だった。車両への乗り込みはまるで混乱した戦場のように、皆が我先にと押し入っていく。
このままだと、また乗れないままだ。
「ホング、次のに無理やりでも乗るしかない」
「うん…」
ピー プルルルルル プシュー
電車の扉が開き人混みに押し流されるように乗り込んだ。
振り返ると、そこにホングは居なかった。
人混みの少し先でホングは立ちすくんでいた。
「ホング…!!!何しよっと!!早く!!!」
私はホングへと必死に手を伸ばしたが、流れ込む濁流に押し戻されるように私達の距離は離れていった。
ピー プルルルルル プシュー
無情にも扉が閉まり、電車が出発する。
扉の向こうには勇気が出ないまま前へ進めず、怯えた表情で縮こまったホングの姿があった。
そうだった。ホングはかなりの引っ込み思案なのだ。分かっていた私がもっと引っ張ってでも押してでも行くべきだった。私は後悔した。
電車に揺られ目的の駅へと向かう。
別れたホングとの連絡手段はない。
降車駅は事前に確認していたので分かっているはずだ。
私は次の電車でホングが到着するのを信じて待った。
しかし、次の電車からホングが降りてくることはなかった。
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一大事だと焦る自分と、こりゃやっちまったかもなと落ち着いている自分が交わる。
考えられる事は2つ。
1.次の電車に乗り込めたが降りる駅を間違えた。
2.次の電車にまた乗れなかった。
前者であれば、もう私達に希望はない。
私は内気なホングを思い、後者にかけることにして、その次の電車を待った。
もし、ここでホングが乗ってこなければ他の手を考える必要があった。
ピー プルルルルル プシュー
到着した電車から出てくる人々の中にホングの姿はあった。
「よかった。さっきの電車に居なかったから降りる駅間違えたのかと思った」
「ううん、行こうと思ったけど、やっぱり行けなくて…」
「まぁ、何とかなってよかった」
安堵とともに私は笑った。
それから、迷いながらも道を訪ねて三千里。
なんとかホテルへ到着し、ホングコングの台湾トラブル・トラベルは幕を閉じた。
ちなみに、台湾の屋台料理の味はあまり好みではなかったし、その辺の犬はみんな放し飼いされていた。
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