〇〇と僕『り』~良識と僕~
1から4までの番号を書き込んだ六角形のえんぴつを転がし、ただひたすらにマークシートを塗りつぶす。
すべては神様の言う通り。
その結果、数学は20点。
それでも僕は、見事高校合格を勝ち取った。
そんで春。
入学式といえば桜のイメージだが、僕の地元では、4月はまだ雪が残っている。
日中は暖かいため、道路はびちゃびちゃ。
それでもなんとか学校へたどり着き無事入学式を終え、いよいよ最初のホームルーム。
担任の先生が自己紹介に続いて「これから高校生活を送る上で……」って話を始めた。
僕は基本的に人の話を一切聞いていない。
なので、ほとんどの会話を翌日の朝までに忘れるのだが、何故だか高校最初のホームルームでの先生の話は未だに覚えている。
別にその先生を今でも尊敬して止まないなんて訳でもないし、特別思い入れのある先生でもない。
それでも覚えているのは、この時はまだ心が擦れておらず、人の話を素直に聞くことが出来たからなのかもしれない。
先生の名前はタツオ。
名字はもちろん覚えていない。
「入学おめでとう。
これから三年間の高校生活が始まります。
卒業後社会に出て立派に大人になるために、この三年間を大切に過ごしてください。
勉強、部活、学校生活の中で様々なことを学び、様々なことを経験してください。
そして、なにより大切なのは、受身にならずに、自分で考えて、行動を起こすことです。
常識に捕らわれないでください。
常識の範囲内からは新しいモノは生まれないし、発見もありません。
ただ、やってはいけないこともあります。
そこで、行動する時に考えて欲しいのは、常識ではなくて、良識です。
常識が間違っていることだってあります。
常識に捕らわれず、良識を持って、自ら行動を起こし、意味のある三年間を過ごしましょう。」
こんな感じだった。
たしかに、町を歩けば、ルールや常識の範囲内であっても、果たしてそれは良識がある行動なのか?と思ってしまうことが溢れている。
店で飯を食っていても、酒を飲んでいても、買い物をしていても、電車に乗っていても、そんな人を見る度に、タツオ先生の言葉を思い出すし、大人になる前に『良識』という言葉に出会えて良かったと思っている。
ありがとう、タツオ先生。
そんなタツオ先生。
車が好きで、マフラーを改造した馬鹿みたいな車に乗っていた。
学校にもその車で来ていた。
果たしてそれは『良識』がある行動なのか。
では、また。
『Unwritten Law / Up All Night』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO 池守