〇〇と僕『ろ』~ロン!と僕~
ロン!!
リーチ、一発、タンヤオ、ドラドラ!
うりゃぁぁぁ!!
なぁんて勢いよく言ってみたはいいが、僕は麻雀ができない。
「雀鬼シリーズ」はほとんど見た。
「哲也」と「アカギ」も読んだ。
なので大体の流れはなんとなく分かるが、役が全く分からないので、実際には打つことができない。
にも関わらず、僕は2年間、雀荘で働いたことがある。
あれは僕23歳。
給料が安すぎることと休みが取りにくいことに嫌気がさし、酒屋のアルバイトを辞めてフラフラ、ヘラヘラ。
もちろん貯えは一切ないので、日々の飯に困らぬよう、賄い付きのアルバイトを探す、探す、探す。
そんな中、目に付いたのが雀荘。
時給は、当時にしては非常に高い900円。
もちろん賄い付き。
しかし、僕は麻雀が打てない。
雀荘で働いていた友人はいつも「代打ち(人数が足りない卓に人数合わせで店の従業員が入ること)で負けて今月も厳しい」と言っていた。
代打ちも仕事の内なのであれば、僕ではまるで務まらない。
しかし、なんたって時給が魅力的。
よし、聞くだけ聞いてみよってことになり、電話で働きたい旨と麻雀ができない旨を伝えると、それでも構わないから面接に来なさいと言われた。
そんで面接。
煙草臭いおじさんが出てくるかと思いきや、迎えてくれた店長はニコニコした小さいおばちゃん。
「麻雀できないのによく電話してきたねぇ」と笑われたが、無事に即日採用。
聞けば、フリーお断りの卓貸し専門なので、代打ちの必要はないとのこと。
麻雀をしているお客さんにドリンクを出したり、軽食を出したり。
んで、お客さんが帰れば、牌をアルコールで拭いたり、卓を掃除したり。
なので勤務中は、基本的には座って煙草を吸っている。
全部で6卓しかないし、それが同時に埋まることはないし、呼ばれるまでこちらから何かすることはない。
しかも、皆飲み食いに来ている訳ではなく、あくまで目的は麻雀なもんだから、1時間2時間呼ばれないなんてことはザラ。
あまりに暇すぎて、店長とよく鍋パーティーをした。
ってな感じで、最高のアルバイトに就けた訳だが、麻雀が分からないせいで、ひとつだけ困ったことがあった。
その雀荘では「役満賞」ってのがあり、「役満」を出したお客さんにビール1杯無料券をプレゼントしていた。
それには従業員の確認が必要なので、役満が出た場合にはお客さんから呼ばれる。
んで、ひょこひょこ確認しにいって、「はいはい、お、お見事!四暗刻!」ってな具合に役満を確認したら、ビール無料券をプレゼントする。
店に僕しかいない時は、もちろん僕が確認することになる。
しかし、僕は麻雀ができない。
「お兄さん、役満!確認して!」
なんて言われたって、それが本当に役満なのかが分からない。
かと言って、麻雀が分からないことがズルいお客さんにバレてしまった場合、僕しかいない時間帯には「役満賞」が無制限に乱発される可能性がある。
そりゃあまずい。
ってな訳で、必死に分かる振りをしなければならなかった。
それが結構大変。
役満の中でも珍しさはピンキリであるから、そうでもない役に対して、「うひぁぁぁ!!初めて見たぁぁぁ!!こりゃありがたや。ちょいと拝ましてもらいますぜ、南無南無南無。」ってな具合に僕のテンションがあまりにもズレていた場合、麻雀ができないことがバレてしまう。
「お兄さん、役満!役満!!」って呼ばれたら、そろりそろりと近寄りながらお客さんの興奮レベルを観察、ちょうど良いテンションを探る。
そんでお客さんの指差す手牌を確認し、分かりもしないのに「おめでとうございます!ほぉー、なるほど、素晴らしい。はい、ビール無料券!」なんて具合にやりきる。
時々変な空気になることもあったが、結局最後の最後まで役をひとつも覚えることなく乗り切った。
僕はいまだに麻雀ができない。
こんな話をすると、本当に適当な人間だと思われるだろう。
しかし、フェールラーベンのことに関してはちゃんと分かってお話しているのでご安心いただきたい。
そんな訳で、今日も明日も明後日も、皆さまのご来店心よりお待ちしております。
『Paranoia games / spirit page』を聞きながら
FJALLRAVEN by 3NITY TOKYO 池守
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