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【ショートショート】リモートワークを求めて
今日、一通のメールが社員全員に送られてきた。そのメールには、なんと今月末でリモートワークを完全撤廃すると書かれていた。
また朝の満員電車に乗って上司の顔色を窺いながら夜遅くまで仕事する生活に戻るなんて、そんなの絶対に嫌だ。俺はすぐに部下や同僚に連絡を取り、リモートワーク完全撤廃の反対運動を行うことにした。
「とにかくリモートワーク完全撤廃を社長に撤回させる。どんな意見でもいい。とにかく案を出しまくれ」
「リモートワーク完全撤廃するならここにいる全員辞めるというのは」
「強行案というわけか。あまり使いたい手ではないが、一つの案としてはありだろう。ほかには」
「リモートワークをやる前と後での仕事の成果を見せるのはいかがでしょう」
「うん、それはありだな。だがそれだけでは社長は納得してくれないだろう。他に意見のある者はいるか?」
「はい。リモートワーク前と後ではストレスチェックの値に差異が生じています。これをもとに社員のワークライフバランスが崩れるという理由で進言してみては」
「いい意見だ。先程の案と合わせて社長に進言しよう」
その後も俺達はありとあらゆる理由を探し、進行中のプロジェクトを後回しにしてまで、とにかくリモートワークを勝ち取るために動いた。それもこれも、俺達のリモートワークを守るためだ。
そして迎えた月末。俺達、『リモートワーク絶対死守同盟』は、社員のワークライフバランスを守るためにリモートワーク絶対死守を掲げ、夜なべして作り上げたプレゼン資料を手に社長室へ向かった。
「先輩、こんなことして本当に大丈夫なんですかね。自分、何だか怖くなってきました」
「いまさら何を言っているんだ。これは我々のリモートワークを守る戦いだ。それに何かあった時は、俺が責任を取る」
先輩が後輩に一度は言ってみたい台詞第一位を吐き捨てた俺は、後輩や同僚たちからの熱い羨望を受けながら足を進めた。
進撃する俺達を社長秘書が止めに入った。だが女性社員複数人で秘書を拘束した。次に取締役たちが止めに来たが、男性社員達が薙ぎ払った。これは戦争だ。慈悲はない。
そしてとうとう、俺達は社長室に入った。
「社長!」
意気揚々と扉を開けて社長室に乗り込んだ俺達だったが、そこに社長はいなかった。否、いるにはいたが、それは信じられない光景だった。
社長室の机の上にモニターが置かれており、絶賛リモートワーク中だったのだ。
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