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【ショートショート】ドッペルゲンガー

 ある日、いつものように通勤電車に乗っていると、少し離れた所に私の顔そっくりの女性を見かけた。最初はただ似た顔の人と偶然出会っただけかと思っていた。でも見れば見るだけ、その人は自分そっくりの顔をしていた。それは似ているとか似ていないとかの次元をはるかに超えていて、鏡に写った私をそのまま鏡の世界から持ってきたかのような、まさにドッペルゲンガーだった。

 生きていれば自分に似た顔の人と出会うこともあると必死で言い聞かせながら、気味の悪さに震えながら、私はそれからの毎日を過ごすことになった。でも日が経つにつれて、電車に乗ってくるドッペルゲンガーが一人、また一人と増えていった。日に日に増えていくドッペルゲンガーに不安を覚えた私は、友人にこのことを相談した。

「気にし過ぎよ。世の中似ている人の一人や二人ぐらいいるじゃない」

「違うの。そうじゃないの。似ているとか似ていないとか、そういう次元の話じゃないの。本当に私そっくりの人がいるのよ」

「でもまあ、しょうがないよねえ」

「なんでそんなこと言うの。私、真剣なの!」

 必死に訴えたが友人は相手にしてくれなかった。それどころか、「病院に行けば」と冷たく言ってくる始末だ。

 何の解決もできないまま時間だけが過ぎていった。その間にもドッペルゲンガーは眼にもとまらぬ速さで増殖していき、通勤電車だけで見かけていたのが近所のスーパーに現れるようになって、行きつけ美容室にも現れるようになって、遂には会社にも現れるようになった。

 いよいよ恐怖を覚えた私は、友人にもう一度このことを相談しようとした。でも相談することが出来なかった。なぜなら、友人もドッペルゲンガーになっていたからだ。

 どうしようもなくなった私は、仕方なく病院に向かった。あまりにも症状が進行していたからか、受付の事務員も、看護師も、女医さんも、全員同じ顔に見えてしまった。

「あの、変なことを言ってると思うかもしれないんですけど、私ドッペルゲンガーが見えるんです。全員が私と同じ顔に見えてしまうんです。私、いったいどうしちゃったんでしょうか」

 泣きながら訴える私をよそに、女医は呆れながらため息をついて一枚の写真を私に見せてきた。その写真を見て、私は声が出せなくなるほど驚愕した。

 写真に写っている人が、私以上に私の顔をしていたからだ。

「あなたが、この人のドッペルゲンガーなんですよ」

 女医が、淡々と私に真実を語った。



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