【ショートショート】カレンダー
私のカレンダーにはたくさんの予定が書かれている。映画、ランチ、デート。それにゴミ出しや掃除みたいな細かい予定も書いてある。どんな予定でも全部書き込むのが私の流儀だ。
どうしてこんなに細かく書くのかというと、それはもう人生を楽しみたいからとしか言いようがない。小学生の時の遠足前夜みたいな、あのワクワク感を私はずっと味わっていたいのだ。だから小さな予定も大きな予定も、とにかくカレンダーに書き込んで毎日のワクワクが止まらないようにしている。
そしてその日の予定が全部終わったら、日付にマジックで斜線を引いている。それをすることで無償の満足感に浸ることができるからだ。一ヶ月すべての日付に斜線を引けたときなんて、最高の満足感を味わえることができる。
でも困ったことに、明日のカレンダーの日付には何も書かれていない。そして明日は月末だ。これまでの日付すべてに斜線が引かれているのに、最後の一日だけ線を引けないなんてことは絶対にしたくない。だから私はまず彼氏に電話を掛けた。
「明日なんだけど、どこか行かない?」
「ごめん。明日友達と遊ぶ予定が入ってるんだ。前に言わなかったっけ?」
「あっ、そっか。ごめん、すっかり忘れてたよ」
「こっちこそごめんね。この埋め合わせは必ずするから」
「無理しなくていいよ。それよりも明日、楽しんできてね」
そういって私は電話を切った。ちょっと寂しいけど、前から決まっていた約束なら仕方がない。次に友達を誘おうとしたけど、電話を掛けるタイミングで地元に帰っていることを思い出した。
「ああ……本当にやることがない」
独り言をつぶやきながら私はベッドに突っ伏した。一人で出かけようにも明日は雨の予報だ。予定があるなら無理してでも外に出られるけど、やることもないのに雨の中を一人で歩くことはしたくない。それに明日が雨だから、掃除や洗濯は今日やってしまった。
途方に暮れながら私はカレンダーを眺めた。来月は予定がびっしりと書き込まれているのに、明日の欄だけ何も書かれていない。真っ白過ぎて、逆に目立ってすらいる。
「いったい何をすればいいのよ……」
独り言をつぶやきながら私は贅沢な悩みにふけた。そして、あることを思いついた。
「これで良し」
空白だったカレンダーに「だらだらする」と書き込んだ私は、明日を楽しむために早々にベッドへもぐりこんだ。どんなことをしようか考えるだけで、もうワクワクが止まらなかった。
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