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【ショートショート】勝負事

 その日、どちらが先に漫画家になれるかという話で友人と言い合いになった。

「当然、俺だね。悪いけど君の絵じゃ漫画家になんてなれないよ」

「たしかに僕の描く絵は君のより下手だ。それは認めるよ。でも僕は毎日漫画を描いてる。だから僕の方が先に漫画家になれる」

「毎日描いてても絵が下手じゃ漫画家にはなれないよ。ま、とにかくこの話は俺ってことで決定だな」

「やってみなきゃわからないだろ」

「じゃあ勝負するか。負けた方は焼肉おごりな」

「よし、受けて立とう」

 そうして、先に漫画雑誌に掲載されたほうの勝ちというルールの元、男と男の勝負がはじまった。

 翌日から俺は漫画の研究を始めた。朝から晩まで名作と呼ばれる漫画を読みふけり、コマ割りやセリフ回し、プロットの組み方やオチのつけ方まで、とにかく何でもノートにまとめた。それと並行して、完璧な漫画を作るためのプロットを何度も書き直ししながら作った。多少時間のかかるやり方だが、これが確実に勝つ方法だと俺は確信していた。

 そして一年後、漫画を研究しつくした俺は、ようやく究極の漫画を完成させた。

 翌日、出版社に持ち込みに行くと、編集者から「読み切りで雑誌に掲載してみよう」という話を貰った。その言葉を訊いた瞬間、俺は飛び跳ねるぐらい嬉しくなった。やはり俺のやり方は間違えていなかったんだと安堵もした。そして、友人との勝負に勝てたことを俺は喜んだ。

 早速、勝利報告のために俺は友人へ電話を掛けた。

「やあ、久しぶり。俺だけど」

『おお、久しぶりじゃないか。急に電話なんかしてきて、どうしたんだい?』

「一年前にした約束のことを覚えてるか? 焼肉をかけて、どちらが先に漫画雑誌に掲載されるかってやつだ」

『そういえばそんな約束あったなあ。すっかり忘れてたよ』

「忘れたなんて言い訳しても、約束は絶対だ」

『ああ、それはもちろんだ』

「じゃあ来週の土曜、夜七時に○○亭でいいかな」

『いや、もっと高いところにしよう。□□苑とかどうだい?』

「え、そんなに高い店に! おれは嬉しいから構わんが……」

『じゃあ決定だな。楽しみにしてるよ』

「ああ、俺も楽しみにしているよ」

 友人から清々しい返事が返って来たので、俺は電話を切った。しばらく連絡を取りあっていなかったが、元気そうで何よりだ。

 それよりも、まさか友人から□□苑に行こうだなんて提案されるとは思ってもいなかった。これは嬉しい誤算だ。今から来週が楽しみで仕方がない。



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