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【ショートショート】サブスク
収支の健全化を図るため、今月から家計簿をつけ始めた。これがやってみると案外楽しい。無駄な出費も一目でわかるので節約のしがいもある。そして何より、家計簿をつけたことで意外なところにお金を使っていたことが分かった。それがサブスクだ。
一つ一つの月額料金が安いからと調子に乗っていたら、いつの間にかサブスクだけで月に一万円も払っていた。ただでさえ安月給の中の一万円だ。これはどうにかしないといけない。
手始めにプランのランクを下げてみることにした。特に動画系のサブスクはランクを下げると広告がついたり低画質になったりするのだが、こうなってしまった以上仕方がない。私は黙って目をつぶりランクを下げた。
そして使っていないサブスクも解約することにした。解約していく途中、数ヶ月使っていないものが複数あったことに驚いた。いったいどれほどのお金をドブに捨てていたのだろうと後悔した。
でも現実は厳しく、これだけ節約したのにまだサブスクで節約しなければいけなかった。これ以上サブスクで削れるところは残っていない。そうなるといくつかのサブスクを解約するしか方法がない。今残っているのは、どれも使っているものばかりだ。
そんな時、不意にスマホが鳴った。こんな時に誰だと憤りながら画面を見ると、なんと彼氏からだった。
「あ、ユカリ? 悪いんだけど二万円もって駅前のパチンコ屋に来てくれない?」
「えっ、そんなお金持ってないよ」
「頼むよ。あと二万で絶対に当たるんだ。そしたら倍にして返すからさ。な、頼むよ。この通りだ」
電話口で頼まれても……、と思いながら彼氏の必死さに心が揺らいでしまった。利用されているだけだってわかっているのに、心のどこかでいつか変わってくれると信じている自分がいる。
「おーいユカリ。聞いてる?」
「あ、うん……」
「じゃあ二万持ってきてくれな。俺ジャグにいるからさ」
ジャグって言われてもわからないよ。
そう思いながら彼氏との交際費を目で追った。すると、今まで彼のことを好きだった気持ちが不思議と冷めていった。
「ねえ、ケンジ。私達別れよう」
「は? え、どういうことだよ」
「私、もうケンジの財布になりたくない」
「ちょ、おい、待てよ! ユカ――」
騒ぐ彼氏を無視して私は電話を切った。一番無駄だったサブスクが彼氏だったなんて、思いもしなかった。
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