ディスクレビュー: Il N'y A Pas De Orchestre / Raein (LP)
2000年代のScreamo/Skramzに流れる隠キャの精神性、社会への潜伏、そして音楽を信じるピュアネス
「隠キャ」と言ってもそれはSNSに何もかもさらけ出すやつらのことじゃない。2003年当時、もちろんSNSはまだ存在せずインターネットの情報は整備されていなかった。だからここに込められているのは社会にはさらけ出さない感情の話だ。USなエモバイオレンスからブルースを削ぎ落とし、より個人に焦点を当てていくRaeinのスタイルは2010年代に出現するOtaku Skramzな音楽性と類似点を多々見出せるが偶然なのか必然なのか、根底に流れる精神性もやはり通じるものがある。だが、彼らはそれをより詩的に、よりドラマ性を持って表現した。だからこそこのアルバムは社会と個人のコントラストによって表現され、それが音としても静と動、整然と混沌によって組み立てられていることに必然を感じるのだ。
アルバムの構造は大きく2つのパートに別れる。#1〜#4は社会の話だ。平和に見えながら繰り返すシステムの話は、「From 3 to 1 in 2 and 4」のタイトルから解釈するなら、この#1〜#4を繰り返しているのが彼らの表現する社会。しかし、彼らは逸脱する。#5以降は彼ら個人の話に移る。ここからの歌詞は「I」は強くなる。
歌詞にポリティカルさは無く、そして主張はない。ただ音楽が彼らにとっては音楽以上の存在であったことを音楽によって表現していく。それは2000年代のヒットチャートやインディロックにも共感できなかった奴らの、社会に潜伏する奴らの感情に寄り添った音楽だった。歌詞を翻訳しなくても俺たちはこの音楽の意味を間違いなくわかっていた。たぶん2000年代のあの時間、「激情」と日本で呼ばれているScreamoを聴いている奴らに共鳴する何かがここにはあった。だからこの作品の評価は、聴く人個人の背景によって大きく異なるだろう。ロックンロールにハマらなければ健全なままだったのに、という最後のバースはまるで自虐だが、その言葉はロックンロールに救われた人間同士で交わす暖かい皮肉。
tracklist:
A1 The Tree
A2 The King Is Dead
A3 From 3 To 1 In 2 And 4
A4 Il N'y A Pas De Orchestre
A5 Tetraedycal Fluctuating Faster Than The Speed Of Light
B1 Artmachine Observation Tower
B2 Miss Kelly Dathe
B3 Tigersuit
B4 She Wears My Blood
B5 I Was Fine Before You Came
Text by Akihito Mizutani (3LA -LongLegsLongArms Records-)
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