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本物のブツを求めて / "独創的なバンド"とは何か。本物とはどういうことなのか。
2024年を終え、既に2025年が始まっている今、2022年に開店させた3LAの実店舗Otonashi Recordsも3年目となった。9月が3周年記念なので何かやりたい。開店時には多くの人が来店してくれたがその後は落ち着き、2024年は新たな兆候がみられるようになった。それは海外のマニアックス達が少しずつ認知してくれて来店してくれるようになったことだ。レコ屋として通常ではあり得ない外観だったが、むしろそれは良かったのかもしれない。インバウンドで儲かってよかったねという話にはまだなっていないのだが、実際にレコードを買う人種の人たちと日本国外からの視点を会話の中で吸収しつつ、これから先のことを考えるととても大事な気づきがいくつもある。
同伴者(保護者?)と一緒に去年来店してくれた15歳のアメリカ人はquiquiやthat same streetのレコードを買い、今年になって来店してくれたイタリア人もquiquiのレコードを買ってくれた。また、InstagramでSPOILMANを見て買ってくれた方もいる。彼らに共通しているのは、日本のオススメのバンドを買いたいっていうことで、要するに「マジのブツ」を欲しがっているということ。
マジのブツとは何か、それはAOTY(くだらねえ)やRYM(くだらねえ)でSome Of Themによる高評価のレコードが欲しいのではないし、過去の名盤リイシューが欲しいのでもなく、"独創的"である芸術としてかつ今の日本のバンドの音源を買いたいという要望になる。彼らの要望はそれであり、「何かっぽい音」は求めていない。わかりやすくいえば、「envyっぽい激情バンド」なんて求めていないし(それが聞きたければenvyを聞けばいい)、店主のオススメは何なのかという非常にプレッシャー(圧)のある要望がそこにはある。これがレコード屋店主 vs 客の戦いなのかもしれない。試されている。
しかし、それは当然ながら試されているのは店主の自分だけではなく、バンドのほうも試されている。「〜〜っぽい感じ」という形容詞が頭にくるようなバンドは"独創的なバンド"とは言えない。こいつの発想はマジでスペシャルだよというレコメンドと、さらにその上で音が良い、演奏が良い、曲が良い、といった要素があれば、それは買い確定なのだ。初音ミクと合体したskramzという意味不明ながら日本オリジナルな発想としてのthat same streetはもちろんその要素は満たすし、元々la quieteなどの欧州Screamo
をルーツに持ちながらエクスペリメンタルに進化したquiquiは、バンドのことを知らないまま買っても後から「マジで良いバンドだ」と感謝されることすらある。曲も良いからだ。「これを売ってくれてありがとう」のメッセージを受け取ることはほとんどないので、こういうメッセージが来ると店主vs客の戦いに勝ったのだと感じる。しかし、これは自分の勝利ではなく、まさにどちらも勝っている。そう、Win-Winとはこうでなくてはいけない。
"独創的なバンド"とは何か。本物とはどういうことなのか。
これについてもう少し考えながら書き出していきたい。
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