「ハードコアは40人の前で演奏されるために作られた音楽」 Interview with TENUE (2024)
最新作「Arcos bovedas porticos / 弓形 穹窿 柱廊」はネオクラストバンドだと思われていたTENUEへの期待を意外な形で裏切りながら、リスナーへ新しい音楽を紹介した素晴らしい作品だった。今回は1曲30分の大作であった前作『Territorios』から本作の間に起きた変化にフォーカスしつつ、その変化を生み出せるバンドが何を考えているかを聞いたものになります。
「俺たちは偉大なミュージシャンではないし、ただのパンク、でも自分たちが感じたものを演奏したいし、自分たちが好きなものを聴きたい」
3LA : 前作『Territorios』は2021年のリリースだから、この作品『Arcos, bóvedas, pórticos』がリリースされるまでに3年の月日が経過しています。この期間、どういった活動をしていたのでしょうか?というのは、前作から今作への変化が楽曲面に大きく表れていると感じているからです。いや、むしろ1曲30分の長編となった前作『Territorios』のほうが異例であったと言うべきなのか。
TENUE : ヘイ!まずはじめに、インタビューとLong Legs Long Arms Recordsからのいつも素晴らしいサポートに感謝します!
質問の件だけど、明らかに2021年以降、俺たちの生活には多くの変化があった。そして『Territorios』はバンドの方向性を変えたアルバムだった。
このアルバムのおかげで、いろんな場所で、いろんなバンドと一緒に演奏することができた。俺たちは、自分たちが作る音楽を政治的なものとして理解している人間だが、非常に異なるジャンルであっても愛している。
『Territorios』では、Ictusのような自分たちに多くの影響を与えてくれたバンドのアイデアを模倣しながら、何か違うことができると信じて、30分の曲を作ろうとした。「エモクラスト」だけを演奏したいと思ったことはない。
俺たちは実験的なものが好きで、それが『Arcos, Bóveas, Pórticos』でやろうとしたことなんだ。バンドは2022年には、Josu(UraやMarmolなどのバンドのギタリスト)がベーシストとしてバンドに加わり、以前からベーシストだったÁlexがギターに担当を変更した。そうした変化により、テクスチャー、サウンド面においてもさらにシンプルに演奏できるようになった。それは俺たちが望んでいたことだったということ。
3LA : イントロからもわかる通り、パンク/ハードコアの定型からは逸脱するぞという意思すら感じるジャジーなサウンドからの始まり方に驚きます。ここで多くのリスナーが「!?」という驚きを感じ、「一体何が始まるんだ!?」という姿勢になると思う。そして怒涛のバンド演奏が始まり、その格好良さに呆気に取られる。これはあなた達の計算通りというわけですね?
TENUE : アイデアとしては、他には思いもよらないサウンドをミックスすることだった。この手のバンドでは、もう驚くようなことは何もない。
D-BEATやポスト・パンクを演奏し、そのジャンルの正統的なルールにフォーカスし続けるバンドがまだいるのはいいことだ。ただ、俺たちがそれをしたいわけではない。なぜなら、俺たちはひとつのものだけを聴いているわけではないし、このバンドは様々なアイデアに挑戦出来る可能性を持っている。俺たちは偉大なミュージシャンではないし、ただのパンク、でも自分たちが感じたものを演奏したいし、自分たちが好きなものを聴きたいんだ。
だから、ジャジーなトランペット、ボサノヴァのリフ、ポスト・パンクのリリック、ブラック・メタルの叩きつけるようなギターリフなど、自分たちがやりたいと思うものを取り入れたらどうだろう?ってことなんだよね。
「俺達にとって重要なのは、常に世界に対する姿勢」
3LA : 今回、よりギターがメロディを担う部分が増えているように感じます。ただ、実は前作もギターのコードワークには一筋縄でない音のハーモニーを感じていました。このアルバムではそれらが隠し味ではなく前面的に押し出されたことによって、TENUEのサウンド面でのシグネイチャーを確立させているのではないかとすら思うのですが、この点に関してはいかがでしょうか? 全体的にも、重金属なヘヴィさだけではなく、さまざまな音楽性の面を見せる面白さがあり、それがこのアルバムを聴きやすくさせていると感じる。
TENUE : このアルバムは、TENUEを4人の集団に変身させた、バンドにおける俺たちの新たな段階に進める作品となった。『Territorios』のリリース時は、バンドメンバーは3人しかいなかったので、ギター・ワークは力強くなければならなかった。ライブであの響きを維持するのは難しいこともあったし、30分のアルバムなのにボーカルを担当する2人はノンストップで叫んでいた。このアルバムではギターの存在感が増した。バンドの人数が1人増え、重みが分担されたことで、より多くの曲を演奏できるようになったし、もちろん、より楽しく演奏できるようになった。
一方、俺たちが求めているサウンドは、メタルの影響下にあるとはいえ、メタルだけのものではない。だから、例えばエモのサウンドをもっと取り入れることで、より親しみやすくなるんだ。自分たちが好きなバンドからの影響があり、そのサウンドが俺たち自身のフィルターを通して、頭の中にあるあらゆるリズムをすべて使って何かを表現していく。結局、多くのバンドがそうしようとしているんだと思う。俺たちは、自分たちを閉ざして何かをすることはないんだ。
3LA : TENUEの楽曲はスペインの伝統的とも言えるNeocrust(Emocrust)の系譜にあると感じていますが、今回のアルバムでは1曲目「Inquietude」の後半部分のアンビエンスや2曲目「Letargo」の中盤にも入る、まるでインディーロック的な印象的な要素.... つまり新しい挑戦的な姿勢が伺えます。それでいて、それが軸となるemocrustを破壊しているのではなく、あなたたちがスパニッシュハードコアの最前線を更新していくという強い意志すら感じさせる。なぜなら全曲にそういった挑戦があるからです。挑戦的である作品に僕は強く惹かれます。
TENUE : これまで述べてきたように、俺たちはEkkaia、Ictus、Madame Germenを聴いて育ったが、それだけではない!俺たちはそうではない。そうなりたくない。俺たちは自分たちの道を探している。それが正しいかどうかはわからない。何かを発明しているわけでもない。ただ、音に対する直感に従おうとしているだけなんだ。
その直感は、20年前、30年前の音に囚われてはいけない。俺たちは、自分たちが育ってきたローカルのパンク・バンド(Sin Dios、Los Crudos、Los Dolares、ガリシアのハードコア・シーン)と同じくらい、Ekkaiaの「Neocrust」に多くを負っている。俺達にとって重要なのは、常に世界に対する姿勢なんだ。
「本当に作曲を続けて、自分たちに何ができるかを見てみたい」
3LA : つまりこのアルバムのテーマにも繋がってくると思うのですが、パンク/ハードコアの歴史は長く、既にこの音楽は「こうあるべきだ!」という保守性を強く帯びた性格のものになっているような気がする。それがアートワークの白黒で表現された古めかしさ、アルバムタイトルにもなっている古い建築技法の名前の暗喩でもあるのではないかと僕は解釈しました。しかし、正解を聞いておきたい(笑)。このアルバムタイトルの意味するところは一体なんだったのだろう。
TENUE : 俺たちはいつもこう言っている。
俺たちは当初から、自分たちが属するべきジャンルの美学的規範から逃れたいと思っていた。放棄された送電線も、廃墟も、頭蓋骨も、ハイパーコントラストの白黒画像もない。これはある種の意思表明である。
俺たちはパンクだが、それは美学のためではなく、俺たちの存在とバンドにおける機能のあり方を考えているからだ。俺たちはアナーキストであり、さまざまな政治的プロジェクトに積極的に参加している。もちろん象徴的なものは重要だ。それを壊すことと同じくらい重要だ。
俺たちはスクリーモやオールド・エモクラストの形式を支持しているけれど、歌詞もいくつかのパターンを壊そうとしている。とはいえ、俺たちの歌詞は決して悲観的なものではない。資本主義世界に対する怒りや組織化を望んでいるのであって、悲しみや絶望を望んでいるわけではない。
アルバムのタイトルは歌詞の内容を暗示している。
俺たちは、パタンジャリの5つの意識状態を使って、人間がどのように世界と関わっているかを反映させた。それは単に、政治と解放について改めて語るための口実だった。俺たちの心は、俺たちが通過する寺院であり、人生が俺たちをより強くするよう後押しする一方で、これらの状態に対処する場所です。悲しみと向き合うことで、本当に大切なことに集中することができ、他者と団結し、このような暴力的な現実を決定的に変える関係を築くことができる。
3LA : アメリカやイギリスの音楽にはない要素がスペインやフランスのバンドにはあって、それはある種のローカル性だと思っています。もしかしたら日本の音楽もそうかもしれないけど、世界をこれだけアメリカやイギリス、ヨーロッパの一部の強国の音楽が売り上げの面ではシェアを拡大していく中で、それがその音楽ジャンルの評価の全てなんじゃないかと錯覚してしまいそうなことがある(ハードコアパンクという流れにおいてもそうだ)。しかし、それでも世界の大きな流れとは別のところで、自分たちのシグネイチャーを確立しようという音楽が私は好きですし、大いにモチベートされるのです。TENUEの音楽には、そういった要素があると思う。で、あなた達自身はそういったことを考えていたりするのでしょうか?
TENUE : 最近、有名になったハードコアバンド、SPEEDのインタビューを見たんだ。彼らのことはあまりよく知らないが、そのインタビューで彼らが言っていたことが気に入った。「ハードコアは40人の前で演奏されるために作られた音楽ジャンルだった」というようなことだ。
俺たちは、パンク、スクリーモ、ハードコア、エモ......バンドは、金銭的、見解的、再生産的に成功するために生まれてはいけないと信じている。俺たちは純粋で反抗的なものから生まれてきた......大きなフェスティバルで演奏するために......あるいは銀行のために? バンドとしてそれは理解できない。
なぜもっと商業的で手頃なものでなく、このようなものを演奏するのかと聞かれたら...。俺たちがいつも自分たちの好きなように音を出してきたということ以外に理由はないんだ。
グループはどんどん良くなっているし、まだまだ挑戦すべきことがたくさんあると思う。本当に作曲を続けて、自分たちに何ができるかを見てみたいんだ。2017年にデモをリリースしたとき、自分たちの音楽を発表して、周りの文化的・社会的生活の根幹をなす政治的空間やグループとの結びつきを生み出しながら、これほど旅ができるとは思っていなかった。俺たちは、誰かが俺たちの音楽を聴きたいと思う限り、できる限りこの活動を続けていくつもりです。たとえ何も売れなくてもだ。
俺たちに必要なのは、音楽の資本主義の根本を揺るがす新しいバンドだ。成功とは、大きなフェスティバルで演奏することではなく、自分たちよりも優れたサポート・ネットワークを通じて、それを克服することだと感じているバンドたちなんだ。
TENUE - "Arcos bovedas porticos / 弓形 穹窿 柱廊" (CD)
この2020年代でネオクラストを続ける本気の奴ら、スペイン・ガリシア地方出身、TENUEの2024年最新アルバム『Arcos, bóvedas, pórticos』を3LAより日本国内盤CDリリースします。
同地方出身でネオクラスト名盤として歴史に名を残すIctusの名作『Imperivm』と同種の匂いを感じさせる1曲30分の大作となった前作『Territorios』のリリースも数年前の話、TENUEの現在地はそれよりも更に挑戦的なエッジに立っている。ネオクラストと激情ハードコアのエモーショナルを融合させた音を主軸としながらも、楽曲のパートはインディーロックやアンビエントな領域にまで拡大し、トランペットやアコースティックギターも挿入された音色まで聴かせる非常に幅の広さを感じさせる作品になった。それでいて表現が散漫になることもなく、むしろネオクラストというサブジャンルの進化、そしてスパニッシュハードコアとはなんたるかという自身の表現を集中させた結果、TENUEの最高傑作かつ2024年リリースのネオクラスト、激情ハードコア作品の中でも非常に挑戦的かつ魅力を凝縮させた作品となっている。
前作以降の世界情勢は更に混沌と分断を極めつつある中で、自身のアイデンティティを見つめ深めることの意味とは?楽曲の中に、音色に、多様性を表現させることの意味とは?白と黒の2色を基調に表現されたジャケットアートワークの中に黄金色に灯された焔の意味とは?何度も奮い立たせる情熱的なハードコアを鳴らす意味とは?
その全てに意味がある。新しい激情のダンスがある。心を震わす裸足の舞、独創的な無限の精神。
tracklist:
1. Inquietude / 恐れ 09:10
2. Letargo / 昏睡 05:43
3. Distracción / 放縦 07:55
4. Enfoque / 接近 06:13
5. Unión / 同盟 07:16