「私たちの過去は、私たちが望むアートを創り出すことにつながっている。」 Interview with RESPIRE (2024)
3LAからリリースしたカナダのRespireの『Hiraeth / 失われた郷愁』は素晴らしい作品だが、今までRespireについては日本語でのインタビュー記事が存在していませんでした。彼らの前作『Black Line』は多くのメディアに取り上げられ日本でのバンドの知名度向上に貢献しましたが、最新作のサウンドはそれとはまた別のものになっています。このインタビューではこの機会を期に日本のリスナーが少しでもバンドのことを知ってくれたらと思い、バンド結成の背景や、サウンドの変化についてを聞いてみようと思いいくつかの質問をバンドに投げてみました。
「ダークで面白く、オルタナティブな楽器を使い、緻密なアレンジを特徴とする音楽」
3LA : 最初はとても月並みな質問なのですが、まずはバンドの結成について聞かせてください。respireはどのようにして結成されたのでしょうか?結成当時のメンバーから今のメンバーは変化している?
Respire :
Respireのメンバーのほとんどは2000年代の終わり頃からの知り合いで、Delo Truda、Tell-Tale Hearts、Quoneといったバンドで一緒に活動していました。2013年に、DarrenとRohanが住んでいたDIYパンクの会場兼家、スクラムデンヤードの地下室で一緒に演奏し始めた。Travis(ドラム)、Ben(ベース)、Darren(ギター)、Rohan(ギター、ヴォーカル)、Egin(ギター、ヴォーカル)、Emmett(トランペット)で始めたんだ。僕ら6人は今でもバンドに残っていて、最高の仲間だ。2016年にはEslin(ヴァイオリン)が加わり、今では誰よりもバンドに欠かせない存在だ。
私たち全員が一緒に音楽を続けているのは、私たちの友情とコミュニティの証と言える。近年は、生活に支障が出ることもあり、特定のショーやツアーに参加する人が来たり来なかったりする。しかし、私たちはいつも自分たちのことを『家族』だと言ってきたし、家族にはオープン・ドア・ポリシーがあり、メンバーは自由に出入りできる。
3LA : サウンドのアイデアが先?
それともメンバーが集まっていく過程でアイデアが生まれた?
バンドは初期の段階で既にEMO/SCREAMOとクラシックやオーケストラとを融合させるアイデアを持っていたと思います。実は私はZegema Beachなどを通してあなたたちのカセットテープなどを入荷していました。なので、私の一部の顧客はあなた達の以前の作品も知っています。どうやって初期からあなたたちは独自のサウンドを出すことが出来たのでしょうか?
Respire :
メンバーと一緒に演奏を始めたとき、これまでのプロジェクトよりも音楽的にもコンセプト的にも野心的なものを作りたいという願望を共有していることがわかった。ダークで面白く、オルタナティブな楽器を使い、緻密なアレンジを特徴とする音楽を作りたいと考えていた。とはいえ、もちろん、それがどこに向かうのか見当もつかなかったし、バンド結成後すぐにビジョンは変化し、今日まで進化し続けている。
私たちは常に、従来のヘヴィ・ミュージックの境界線を押し広げ、どのように聴こえるべきかという「ルール」にとらわれないことを望んできた。ポスト・パンクからクラシック、シューゲイザー、インディー・ロック、ブラック・メタルまで、多彩な音楽的嗜好を持ち、伝統的にヘヴィ・ミュージックとは無縁のアーティストやジャンルからインスピレーションを得ることを恐れない。私たちは、自分たちのサウンドを発展させることは旅であり、今も旅の途中だと考えている。
「Post-Everything」は冗談から始まった
3LA : あなたたちのwebにも掲げられている「Post-Everything」ですが、確かにあなたたちの音は「POST」であると思いますが、「POST-HARDCORE」や「POST-BLACKMETAL」といったものではなく「POST-EVERYTHING」とした理由はなんでしょうか?思うに、今回の作品が象徴しているように、あなたたちが対面している困難など、音楽的な問題だけでなくあらゆるものを超えていくという意味も含まれているようにも思えます。
「Post-Everything」は、ポスト・ロック、ポスト・ハードコア、ポスト・メタル、ポスト・ブラック・メタルなど、私たちにあらゆるレッテルを貼る人たちをからかう、ほとんど冗談として始まったもので、繰り返しになるが、私たちはジャンルを、音楽を分類するのに便利なもの、自分の好きなものを見つけるのに役立つガイドだと考えている。「Post-Everything」というラベリングは、私たちが自分たちの主体性を保ち、ジャンルのレッテルが私たちの活動を束縛するという考えを否定するものなのだ。
3LA : 前作『Black Line』のリリース時は当時、それまでの活動の中で最もバンドが知れ渡りましたが、『Black Line』はバンドの活動の中でどのような位置付けだったのでしょうか?この質問をする理由は、本作『Hiraeth』が前作からも更にサウンド・楽曲面で変化が起こっており、決して前作の延長であるとは言えないと思ったからです。前作のようなブラックメタルやシューゲイズといったサウンドとのクロスオーバーはやり尽くしたところもあるのでしょうか?
『Black Line』は、私たち全員にとって特別で、非常に誇りに思っているレコード。パンデミック(世界的大流行)が始まる前、そして2020年から21年にかけてのその他の出来事(ブラック・ライヴス・マターの抗議活動、米大統領選挙、1月6日、さらなる異常気象など)の前に、私たちはこのアルバムを書き上げ、(ほぼ)レコーディングを終えていた。ファシズムと気候の破局に関する私たちの懸念が正当化された一方で、多くの点で結果は恐ろしいものだった。私たちは、この題材の残酷さを捉えるには、大胆で暗く、押しつぶされそうなほど重いアルバムを作るしかないとわかっていた。
しかしながら私たちは新しい作品に取り組む際、過去の作品を繰り返したり、再利用したりするつもりはなかった。『Black Line』リリース後の2020年に本格的にスタートした『Hiraeth』の作曲にあたり、私たちはバンドのコンセプトの核となっている音楽ジャンルの実験と脱構築を続けたいと考えていた。『Hiraeth』の 「サウンド 」が変化したのは、ブラックメタルやシューゲイザーの要素に終止符を打ったからではなく、私たちのオープンマインドな実験と、数多くの音楽スタイルやジャンルへの深い愛情から生まれたものだということです。結成当初から、自分たちが愛するヘヴィ・ミュージックの 「予想外 」と 「予想外 」の側面で演奏していきたいと常に思っていた。『Hiraeth』の最初の数曲を書いたとき、私たちがいままで演奏していた他のサウンドにもう少し深く傾倒し、より「インディー」なRespireのレコードを作ることが正しいと感じていました。全体的に、私たちはRespireの音楽を、他人が自分たちの音楽に期待するものではなく、自分たちが好きなものを反映したものにすることに常に重点を置いてきたのです。
「日本盤CDの裏面に掲載されている写真は、東京郊外で幼稚園の友だちの中にいるEginの姿」
3LA : 本作『Hiraeth』は既に様々なメディアなどwebで読める範囲で、あなたたちバンドメンバーの住んでいる場所が遠くなったりして制作に時間がかかり、また移民としての自身の問題といった要素も反映されています。しかし、荘厳なオーケストラが奏でるダイナミズムの強力さや、サウンド面においても明るさや希望も感じさせるような雰囲気があり、決してネガティブ一色なわけではありませんが、それはあなたたちがそうしたくはなかったから?
EMO/SCREAMOをあなたたちのような手法で更新していく、もしくは逸脱していくバンドが存在するということはシーンにとってはどんな意味があると思いますか?
『Hiraeth』のために曲を書き始めたとき、私たちは『Black Line』から進化し、変わりたいと思った。EginとRohanが移民としての直接的な経験(Eginはアルバニアから日本、そしてカナダへ、Rohanはインドからカナダ、そしてアメリカへ)を持っていることもあり、私たちの身近なテーマとなっている。
『Black Line』が世界の腐敗や腐敗をテーマにしていたのに対して、『Hiraeth』はより内省的でメランコリーな作品だ。社会的な問題について語るのは変わらないが、それはしばしば個人的な視点からのものであったり、自分たち自身の経験をきっかけとしていたりする。そうした歌詞のテーマを音楽に反映させたかった。ヘビー・バンドとしてのアイデンティティに忠実でありつつも、これまでよりもメロディとバリエーションに富んだ優しいサウンドにしたかったんだ。
3LA : そうだ、思い出したんだけどenvyのカバー曲をやっているのもそうだけど、バンドの最初期のデモ音源には明らかにスタジオジブリ作品から拝借したアートワークがありますよね?日本という国はキリスト教文化圏ではないし、価値観には相当あなたたちの国とは違うものが根底にはあると思う。しかし、あなた達がそこに共鳴する理由はなんでしょうか?僕が思うに、あなた達が「POST-EVERYTHING」を掲げて、新しい領域のものを挑戦するということが、他の価値観とか別の場所に生きる人間に対して寛容さを持っているような気がして、それが今回のアルバムにはとても表現として反映されていると思うのです。だから、前作よりも攻撃的な展開は少ないけれど、とても心に響くものがあると思うんだ。
私たちのバンドは、そこに持ち込まれる集団的な人生経験や芸術的影響、ほとんどそのものなのです。Respireのサウンドとストーリーは、私たちそれぞれの道がひとつになったものなのです。音楽的には、Respireのメンバーの中には厳格なクラシック音楽のバックグラウンドを持つ者もいれば、スクリーモ、メタル、2000年代のカナダのインディ・ロック・サウンドの出身者もいる。それぞれ、移民、カナダ人、女性、LGBTQIA+のメンバーからなるバンドです。
私たちの過去は、私たちが望むアートを創り出すことにつながっている。その大きな部分を占めているのが、私たちの移民としての経験です。 Eginは共産主義直後のアルバニアで生まれ、幸運にも1994年から2001年まで日本の横浜で育った。ヨーロッパで最も閉鎖的な社会のひとつである日本を離れ、Eginの家族にとって日本は根本的に解放され、目を見開かされるような環境だった。『Hiraeth』の日本盤CDの裏面に掲載されている写真は、東京郊外で幼稚園の友だちの中にいるEginの姿である。Eginがカナダに住んで23年になるが、日本は過去も現在も非常に特別な存在であり続けている。スタジオジブリや、『ナウシカ』や『もののけ』といった映画に込められた抵抗や環境保護のメッセージは、Eginの政治に強いインスピレーションを与えてきた。Eginがカナダに移住した年に公開された『千と千尋の神隠し』で描かれた、異国や見知らぬ環境から抜け出せないという感覚は、移民としての私たちの経験と重なるところが多い。
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https://longlegslongarms.jp/music/products/detail.php?product_id=3111
Respire - "Hiraeth / 失われた郷愁" (CD)
“Orchestral Post-Everything Collective”
カナダ・トロントRespireが融合させる激情ハードコア・オーケストラ
Emo/Screamoのエッジの一端を10年間走り続けたバンドが放つ渾身の2024年作
カナダ・オンタリオ州トロントを拠点に活動するRespireは2014年にデモEP『Demonstration』を発表し、シーンに登場した。今から約10年も前の作品とはいえ、その時点で彼らは明確にEmo/Screamoの文脈とクラシック/オーケストラへの接近を試みており、以降Zegema Beach RecordsやMiddle-Man Records、Left Hand Label等の激情ハードコアシーン重要レーベルからのリリースを重ねる中で自身の音楽性を追求、2020年にリリースされたそれまでの活動の総決算とも言える『Black Line』では更に広範囲のリスナーから支持を獲得することになった。
2024年にリリースされた本作『Hiraeth』はそれから3年以上の月日をかけて制作されている。長期に渡り時間が掛かってしまった理由としてはトロントからテキサス州へ移住したメンバーもおり、物理的な距離が発生した中での移動による制約も大きかったようだ。作品の内容としては移民として自身も抱えている問題、危機感がより一層反映されており、同時に故郷、帰る場所への哀愁も感じさせる表現も含まれており、これまでの作品以上に様々な感情を引き起こすアルバムになっている。『失われた郷愁』という邦題はその内容を表してはいるが、歌詞以上に楽曲、演奏、音そのものが彼らの抱えている哀愁や、そして未来への希望も語りかけていることは伝わるだろう。若き激情ハードコアバンド達との大きな違いでもあるが、人生を重ねていく上で生きることそのものの意味やアイデンティティーへ踏み込んでいく表現は長く活動しているバンドならではの深みがあり、そして「音楽の力」という手垢のついたワードさえ、改めて感じさせる。
Respireは同国カナダのGodspeed You! Black Emperorに大きく音楽的影響を受けていることももちろんだが遠く日本への想いがあることも見逃せない。かつて2018年にZegema Beach Recordsよりリリースされたenvyのトリビュートアルバム『Envy/Love』にはRespireによる「Go Mad And Mark」カバーが収録されているが、海外で大きな評価を得ているMONOやenvyはポストロックやハードコアへのクラシック音楽を融合させていくアプローチを取っておりRespireの手法と共鳴するものがあり、またEP『Demonstration』が明らかにスタジオジブリ作品『千と千尋の神隠し』(英題:「Spirited Away」)がアートワークに使用されているように、ジャパニーズカルチャー的価値観によって様々な要素の融合を計っているようにも思える。音楽を通して発信するメッセージを重要視してきたバンドが故に、西洋的な価値基準にのみ基づいた表現ではないことも特筆すべき点だ。本作は歌詞カードに日本語歌詞のみを掲載しているが、アートワークにおいてもフロントジャケット以外は日本版として新たに再編集が施されており、そこにも十分な意味が感じ取れるだろう。
tracklist:
1. Keening / 哀歌
2. The Match, Consumed / 使い古しのマッチ
3. Distant Light of Belonging / 遠き光
4. First Snow / 初雪
5. Home of Ash / 灰の家
6. Voiceless; Nameless / 声なき声
7. The Sun Sets Without Us / 俺たちのいない日暮れ
8. We Grow Like Trees in Rooms of Borrowed Light / 借り物の光
9. Do the Birds Still Sing? / 小夜啼鳥の歌
10. Farewell (In Standard) / 別れの挨拶
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