暮らしはデザインできない、だから面白い。 #noteフェス
田中さん「暮らしとかコミュニティみたいなものを設計してデザインできると思う方がおこがましいんですよ」
2021年10月15日(金)〜17日(日)の3日間にわたって開催されている『note CREATOR FESTIVAL 2021』(noteフェス)。
初日の15日に行われたトークセッション『暮らしをデザインする』は、名言が次々と飛び出す強烈で濃密な時間となりました。
登壇者は、建築家・起業家の谷尻誠さんと、株式会社グランドレベル代表取締役社長の田中元子さん。
おふたりが手がけてこられた空間はどれも魅力的で、大学で住環境学を専攻していた私にとって、とても興味深いものでした。
谷尻さんの事業で特に気になったのは、「社員+社会の食堂」がコンセプトの『社食堂』。
谷尻さん「僕の妻が料理家で、『身体の細胞の原料は食事だ』と言った。それを聞いた時に、うちの事務所のスタッフのみんなコンビニ弁当で細胞できているなと思って」
世の中のクリエイティブの会社は夜遅くまで働いて、コンビニ弁当を食べながら働いているけれど、まずそこから変えないと良い会社はつくれないと思った谷尻さんは、「細胞をデザインする」というコンセプトで食堂をつくったのだそうです。社員だけでなく一般の方も利用でき、設計事務所に足を運ぶことに抵抗がある人にも予め雰囲気を知ってもらえるという利点もあります。「ライブラリーでもあり、ギャラリーでもあり、オフィスでもあり、レストランでもある」場所というものに興味を惹かれました。
田中さんの事業で特に気になったのは、まちの家事室付きの喫茶店『喫茶ランドリー』。
田中さん「わたし、公園とか公民館とか『公』の付くもの、自分でやりたいんですよね」
自分で公民館をつくるプロジェクトって何?と、そういう発想がまず私の中にはないので驚きでした。ですが、ご近所付き合いが希薄になっている現代において、公民館のように利用できる喫茶店というのは面白いコンセプトだと思いました。洗濯機を回している間にコーヒーを飲みながら偶然居合わせた人と談笑できる場所があるって、なんだか素敵。私もそういう街に住んでみたいと思いました。
終始パンチラインだらけでしたが、その中でも私が印象的に感じた言葉をそれぞれふたつずつ紹介します。
まず、谷尻さんの発言からはこちら。
谷尻さん「基本、世の中って『混ぜるな危険』なんだなっていつも思ってるんですよ。(中略)僕は基本的に混ぜるほうがいいなっていう考え方なんですよ。混ぜないと新しい化学反応も起きないし、負荷のない成長ってないので、『混ぜるな危険』をやっていると負荷がどんどんなくなるんですけど、それは便利も一緒で、そうすると人って考えなくなっていくので、問題が起きるから考えるわけじゃないですか?だから、良好な問題の起こし方を設計することが結構重要だなと思っていて、だから、混ぜちゃいけないと言われても混ぜちゃうんです」
「良好な問題の起こし方を設計する」ってすごい言葉だと思いませんか?問題が起こること自体は全然問題じゃなくて、どう問題が起こったのか、それをどう解決するかを考えることが一番大事なんですよね。良好な問題が起こることで、問題を解決するためのアイデアが集約されていって、新たな事業や活動が生まれていくのだと、私は理解しました。
谷尻さん「リスクがなんなのかよく分かってないっていうのか、『失敗したら元に戻るだけだよ』っていつも言うんですよ。今からトライしても、元に戻るだけなんだから、別にまたやればいいじゃんって思っているので、全然リスクだと思ってない」
失敗したら引き返せないと思いがちですが、そうではなくて、また元に戻るだけだという考え方に衝撃を受けました。私は今まで、失敗するということは、何もかもを失ってしまうことだと思っていて、むしろマイナスだと感じていたのですが、谷尻さんはゼロ地点に戻ることだと考えていらっしゃるんですよね。例えば、事業に失敗したら借金を背負う可能性もあるし、家族や大切な人たちに迷惑をかけてしまうかもしれない。私はそれをリスクだと捉えているし、一番恐れているのですが、おふたりはそうではないから、やりたいことはすぐにやることができる。その行動力があるからこそ周りの信頼を得ることができて、賛同者も増えていって、そうしてまた次のやりたいことにつなげていける。そういう生き方には憧れるけど、私はまだその領域に達するのには時間がかかりそうです。
そして、田中さんの発言からはこちら。
田中さん「自分を超えているのは他人しかいないから、他人は全員自分超えしてるんで、それが好きなんです。だから、それを見たり触れたりできるチャンスを自分で作っている感じ。喫茶ランドリーも屋台も、わたしが自作自演というか、自分でチャンス作って、自分で想定外のこと起きた!とか、変な人いた!とか、そういうことが楽しくてやっている感じ。でも、それが街のいいところだと思っています」
「他人は全員自分超えしてる」って、なんて謙虚な考え方なんでしょうか。結局、みんな持っているものが違うから、私が持っていないものを持っている他人を超えることなんてできないんですよね。でも、それって逆を返せば、他人は誰も自分を超えることができないってことなんじゃないか、と私は思いました。だから、お互い違うことを尊重し合って、補い合って、人はそうして生きていくのだと感じました。私も、もっと知らない人と出会うチャンスを自分から増やしていかなければいけないな、と思いました。
田中さん「やってみないと分かんないし、明日を生きて今を生きている人いないんですよ。皆さん、明日どうなるのか本当は分かんないのに、同じような今日みたいなものが来ると思って寝て起きるんですけど、明日を知って今を生きる人はいないから、みんな賭けているんです。1秒1秒ガチャです。人生ガチャです。」
大人になって時が経つのが早く感じるのは、初めて体験することが少なくなっているからだ、という話を聞いたことがあります。予定調和の日々の中で生きているから、あっという間に時間が過ぎてしまうということです。だけど、一日たりとも同じ日なんてあり得ないんですよね。「どうせまた明日も変わらない日常が来る」と思い込んでいるだけで、明日のことなんて誰にも分からない、過去と今しか知ることはできないんです。そんな当たり前のことを「1秒1秒ガチャです」なんて、これ以上にないパワーワードで示されてしまったら、もう二度と「同じような毎日でつまらない」なんて言えないと思いました。日々の些細な変化をもっと敏感に感じ取っていかなければいけないと思いました。
それぞれの言葉をふたつずつ、と書きましたが、実は冒頭に田中さんの言葉を引用しています。これが今回、私にとって一番のキラーフレーズでした。そもそも暮らしはデザインするものなんかじゃないんだと、『暮らしをデザインする』というタイトルのトークセッションで言い切ってしまう。その格好良さにシビれました。確かに、おふたりが手がけてきた空間づくりというのは、あくまで「場」を提供しているだけなんですよね。その場所でどう暮らしていくかというのは、利用する人それぞれが自由に考えることなんです。だから、田中さんが街にベンチを置いたところで、必ずそこに座らなくてはいけないということではなくて、そのベンチをどう使うかはその人次第。谷尻さんが『絶景不動産』で景色込みの自然豊かな家を提案したところで、そこに実際に住むかどうか決めるのはその人次第。おふたりがされていることは、あくまでも「より良い暮らし」にしていくための種を蒔くことで、それを人に強要することは何もない。そのことに気付かされた瞬間でした。
正直どこを抜き出せばいいのか分からないくらい、金言のオンパレードだったトークセッションでした。もし見逃したという方がいらっしゃったら、ぜひアーカイブをご覧いただきたいです。きっと見る人によって、刺さる言葉も違ってくると思います。
この記事が参加している募集
いただいたサポートで写真に関する講座代・フィルム代・現像代・機材代に充てたいと思います。私の「写真家になりたい」という夢を応援してくださる方がいらっしゃいましたら、サポートいただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。