見出し画像

季節の博物誌 10 ロウバイとマンサク

 夏の季節、汗をかきながら雑草を取るのに追われていると、抜いても抜いても生えてくる植物たちの生命力にしばしばうんざりする。しかし植物の多くが活動を停止する真冬の頃、日だまりの中でひっそりと咲く花を見ると、いじらしくなってしまう。厳しい寒さに負けずに咲く姿を心の拠り所にしたくなって、植物への関心が他の季節よりも強くなる。とりわけ毎年気になるのが、ロウバイとマンサクの花だ。
 ロウバイは早い年には年末頃から開花する。色硝子のように透き通る黄色い花弁を開き、良い香りを放つ。青空に映える鮮やかな黄色が目を引き、遠くからは花が咲いているというより、空気にほんのりと色が付いているように見える。その香りは、絵の具が少しずつ溶けていくように空に広がる。冬に飛んでいる蜂は少ないが、時折ロウバイの花の中に入って蜜を吸っている小さな蜂がいる。それを見ていると、一瞬蜂と入れ替わりたくなる。眩しい黄金色の光に満ちた小部屋の中に入ると、香りに酔いしれてしまうかもしれない。 
 マンサクはロウバイの後に続くように、一年で一番寒い頃に咲く。ロウバイと同じ黄色い花だが、形はまったく違って、一風変わった花である。昔、子供が吹いて遊んだ吹き戻しという玩具がある。吹くとヒュルル・・・と音を立てて、丸まっていた紙が膨らんで伸びるものだが、マンサクの花の花弁は、子供たちが一斉に吹いて空に伸びていく吹き戻しのような、あどけなくて純朴な形をしている。少し縮れた花弁が、いかにも寒気に耐えて咲いている風情があって、いじらしい。私が観察しているマンサクは、花が咲いても枝にまだ枯れ葉が残っている種類で、花を北風から守っている。その姿は、子供を見守る老人たちのようで微笑ましい。
 毎年ロウバイやマンサクが咲くのを見ると、そこからモノクロの景色に色が生まれ、静かな水面に波紋が広がるように、止まっていた季節が動き始める気がする。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?