『土が変わるとお腹も変わる』の要約(編集中)
要約
はじめに
食からのアプローチこそが最も温室効果ガス削減に威力を発揮する
2014年にコペンハーゲンで慣れてた研究では、有機に転換すれば調理場の88%、輸送や食堂でも食品残渣が26~50%削減することが判明している
肉、乳製品を30%削減するだけで同市全ての屋根にソーラーパーネルを設置する削減効果がある
遠距離から大量生産された加工食品を調達するから残渣が発生し、それを焼却処理するために温暖化ガスが発生する
地元の農家から良質なオーガニック野菜を買って素材から調理し、平飼いの自然卵や牛肉を少量いただき、足りないタンパク質を豆や野菜で補う
有機は大変で高い?
伝統的な知恵と作物生理や微生物楽、農業生態学の最先端の化学をドッキングした農法は、化学肥料や農薬漬けの農法よりはるかに効率的で粋な農法(本当か🤨?)
CSAで消費者と生産者がリスクシェアしながら農業する仕組みも出てきており、流通の安定化も狙え出した(本当か🤨?)
兵庫県芦屋市のイタリアンレストラン「ボッテガブルー」では、残渣を減らすように、例えば収穫されたケールをパスタ、ジェラート、デザートのシュークリームの生地にまで練り込んだ。コペンハーゲンでも調理師や栄養士の教育から始めている。
生産者、料理人、消費者と誰もが満足できるウィンウィンな状況は可能であり、川下の食品ロスを減らし栄養価の高い有機食材に切り替えることで生産サイドへの負担そのものを減らす消費者サイドの意識転換、つまり「フードシステム」全体の転換が、2020年にEUがうち明日「農場から食卓まで戦略」の根底に流れている
ネックとなるのは仕組みづくりに欠かせない学校の栄養士や行政職員のマインドの問題。ここの改革が一番難しい。
以下、感想。
有機農業は「量が安定供給できない、システム化できない、コストがかかる」という認識があるので、どれだけ環境負荷を下げられる余力や海外事例があったとしても、国内での導入には心理的ハードルが高い。しかし、土壌と微生物の関係性に注目すれば、前述した仕組みを使って安定化は可能である、というのが本書のメッセージングだと理解した。
序章
気候変動をモロに受ける農家は、安心安全や品質の向上だけでなく、気候変動に適した農業を模索する必要がある。
化石燃料を燃やすことで排出されたCO2より、土壌に蓄積されたCO2の減少量が大きい。つまり、土壌から出た有機物を畑に戻す有機農業が、地球を冷やすためには最も効率的だということ。(本当か🤨?)
「気候農民が都市と地球を救う」をテーマに、2021年にソウルでシンポジウムが開催。土壌部微生物・気候学者のウォルタージェーン博士は、「人類にできる唯一のことは、「再生農業」による土壌カーボンスポンジの再生しかない」と発言。(本当か🤨?)
他方で、重労働低収入なら誰も有機農業をやらない。「最も重要なことは、農家の生産性と収益性を向上させることだ」と、デビットジョンソン博士。(これは納得。インセンティブないとやらない😌)
国内でも、窒素を使わず草木を中心とした堆肥を中心に有機農業を営む事例が出ている。これらは個人の試行錯誤によって生まれた農法。技をボトムアップで農家をコアに横展開すれば十分に有機農業率を上げられるのでは?と著者は語る。
本書の構成
1章:洪水と早魃(かんばつ)に団粒構造が有効である
2章:植物と菌根菌の連携で土壌が作られ、不耕起とカバークロップで無農薬・無化学農法が可能な理由
3章:草原と偶蹄類(ぐうているい)の共進化で肥沃な大地が作られた事例
4章:土壌が根から出る液によって構築されていることの説明。また菌とバクテリアの率をコントロールすることで温暖化防止が可能な説明
5章:地球を適正な温度にしているのは水循環であり、その鍵がカーボンと土壌団粒にあることの説明
6章:日々の食生活が土壌や地球と繋がってること、足るを知るが生命のデフォルトであることの説明
終章:温暖化防止の具体的な政策を取り組んでいるデンマークの紹介
1章:洪水と早魃(かんばつ)に団粒構造が有効である
コピー用紙を重ねた土地と、くしゃくしゃに丸めて敷き詰めた土地。後者が団粒構造。水持ちや水はけがよく、最大18倍もの保水力があった
被覆植生がないと大地は乾燥し、表土は風によって流される。暑さと強風が重なると砂嵐が起きる
「土地の健康を守らなければ農業は続けられない」(ニコルマスターズ博士、モンタナ州)
対策としてあるのがマルチカバークロップ革命。牧草や複数種の作物を一緒に栽培すれば、無農薬・無化学で農業ができる
2章:植物と菌根菌の連携で土壌が作られ、不耕起とカバークロップで無農薬・無化学農法が可能な理由
耕起は土壌微生物をの5割を殺し、表土を固め、保水力や通気性を下げる。有機農家のほとんどは除草剤を使わない代わりに耕運機で除草している。表面は除草されるが、深いところでは保水力は上がらない。
通気性の悪さと酸素不足は土壌食物網のトップにある昆虫やミミズの量を減らし、真菌優位な土壌からバクテリア優位な土壌に変わる。嫌気性細菌はその他の細菌や根を溶かすアルコールなどを分泌する。
植物と菌類はネットワークを形成に共生関係にある。植物が健全に育つためには「土壌植物網全員の参加」が必要。植物は根から液体カーボン(糖)を出す。これで真菌やバクテリアは育つ。一方で菌根菌は菌糸を伸ばし、植物に水分や栄養分を提供する。特に吸収しづらいリン酸を吸収してくれるので、植物の成長を促す(https://smartagri-jp.com/smartagri/1103)。リン酸は施肥することで関連する微生物が休眠したり死んだりするから、むしろコストがかさんでしまう。また菌根菌はグロマリンという粘着性の物質を出して団粒構造を安定化させる。
植物は自分に必要な栄養素を分泌・分解してくれる真菌に液体カーボンで働きかける。施肥することで液体カーボンを出さなくなり、真菌などの生態系が崩れる。
植物は液体カーボンを排出し、特定の真菌を活性化させる。真菌は他の原生生物やセンチュウ、昆虫やミミズが食べて排出することで、植物が吸収できる。これをpoop loopと呼ぶ。
土壌試験は無意味。菌根菌など菌類を評価できないから。
3章
牛は地球温暖化を引き起こす悪者なのか?——NOである、というのがこのチャプターの主張。
キーは放牧。
第一に、非可耕地を食料生産の場に変えられる。この路線は(飼育会社や農業機械メーカー、種苗会社の)金にならないのであまり話題にならない。
第二に、土壌カーボン量を増やせる。基本カーボン農業ではカバークロップ、堆肥、不耕起栽培によって土壌の炭素を増やしていくが、そこに放牧が加えることができればさらにカーボン量が増える
長期間放牧すると土壌が荒れてしまうので、小ブロックに分けて放牧をサイクルさせると、土壌が回復する
バクテリアと真菌は一対一のバランスを保つことが重要だが、それには撹乱が必要。偶蹄類と草食動物は草を食べ根を成長させ、糞によって微生物を増やし、歩行やフンを隠す行為によって撹拌が生まれる。これが大事。
4章
ハーバーボッシュ法によって窒素を抽出できるようになったが、抽出には化石燃料を必要とする
化学窒素肥料は、作物に吸収されるのはわずか10-40%で、残りは硫酸塩として水質を汚染したり、亜酸化窒素とって大気中に放出される
植物に吸収されると有害な硝酸塩や亜硝酸塩として残留されてしまう。硝酸塩は乳腺炎や蹄葉、不妊症、肝機能障害を発生させ、代謝障害からガンを発生させる
確かに窒素はタンパク質やDNAを作るのに必要。ただし、菌根菌も窒素固定に一役買っている
そもそもなぜ窒素は大気中の8割も存在するのに、吸収するように進化しなかったのか?それは光合成が最重要プロセスなのだから、窒素は二の次ということ。植物が炭素を吸収するのに有効なのが、液体カーボンによる表土形成。
5章
大型機械で耕せば、土壌中の有機物は撹拌され、地表にむき出しになった炭素分子は大気中に放出されてしまう。
カバークロップを植え、不耕起農法や輪作を行い、作物残渣を循環させることで、土地を回復させられる
土壌に炭素を貯蔵することで、経費をかけずに、安全に土壌に炭素を貯蔵できる
6章
微生物の多様性、土壌カーボン含有量、土壌の保水力を「土壌の完全性」の指標として提示(他は、スピリチュアルな内容が書かれていてついていけなくなった😭)
終章
EUは2030年までに全農地の25%を有機に転換しようとしている。2019年では8.5%が有機。政府が転換を支援している
国連食力システムサミットでは、米国のトムビルサック農務長官は、技術的なアプローチによる食料増加が必要で、EUのやり方では生産量が落ち込み価格が高騰するとした。他方元米農務省のキャスリーンメリガン副長官は、すでに十分な食糧があるのだから、問題は分配であり生産量ではない、と指摘する。
おわりに
腸内細菌と食と農、グローバルな気候変動が「土壌」をキーワードに繋がってることを描いた3部作のひとつ
優良事例として、ほんまもん野菜の紹介
100%有機米の給食を日本で最初に実現した千葉いすみ市は首都圏エリアで移住したい地方ランキング1位、給食に使う野菜の35%を地産地消している大分県臼杵市(うすきし)も6年で1300人が移住した。どちらも食の安全性が評価する人が多い
臼杵市では、書類が煩雑で時間がかかる有機JASに代わり「ほんまもん」という市独自の認証制度を設けた
有機JASより市民の認知度が高い(7〜8割)市の栄養士や保育士と連携し乳幼児診断や家庭教育学級での試食や農産物の配布が認知を図っている(ただし10年以上かかった)
ほんまもん野菜を支えているのは「土づくり」
植物8割、豚糞2割を材料に6ヶ月かけて発酵させた「うすき夢堆肥」
トン2万。ただし市内農家には5千円。希望すれば農業振興公社が農地まで運んでくれる。窒素をほとんど含まないが、微生物とミネラルを豊富に含む堆肥
生産物は返礼品として使われている。トータルとしては黒字
制度構築のため議会で揉めた際は、実際の野菜を市議会議員全員に食べてもらい、おいしいとして条例にもつながった
頭でなく腹の底から理解する
「農業する上で一番大事なのは土づくり。行政がするなら土づくりをしてもらいたい。土づくりは時間とコストと労力がかかるので、個人が堆肥を作っても3年以上かかる。土づくりができていれば農業に取り組みやすい」
詳しい背景は「100年ごはん」という映画で述べられている
読んでいて思ったこと
効率性 vs 環境保全性のトレードオフ?
慣行農業は収量最大化を目指す農法であり、安価で大量の野菜を作ることを狙っている。作付け規模が大きく、環境負荷へのインパクトが大きい。だけど1億の日本人口が生きていく上で必要な食量を提供している。有機農業に成功したデンマークは人口590.3万であり、日本人口は1.2億。規模も違えば気候も違う。全面移行するのはスリランカと同じにの前になる可能性を含んでいる。
「環境に良いから有機農業」も自己満では?
これを機に環境問題について改めて調べた。
「地球温暖化の原因は人為的な二酸化炭素排出に因るものだ」というのはIPCC6次報告書で断定されている(ほぼ事実に近い仮説。否定仮説も提示可能)
二酸化炭素排出のシェアは中国とアメリカでシェア4割。この国らが脱炭素をしない限りインパクトが少ない。またこの国らが炭素排出を続ける中他の国が脱炭素を進める場合、国力が下がって国家間のパワーバランスが崩れる
環境問題を語る上では、「二酸化炭素は最も確からしい原因」としてあくまで仮説であることを説明しつつ、その解決には、米中をどう脱炭素計画に巻き込むかの言及が必須だと思う。それを触れずに環境保存を語るのは、自己満でしかないと思う。
「慣行→有機」への移行を進めるなら、生産量がどれだけ維持できるかへの詳細な言及が必須。環境問題を絡めるなら、米中との国際政治問題への言及が必須。そのどちらもないなら、ただの机上の空論だと思う。
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