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執念第一 #毎週ショートショートnote

 弟というのは、厄介な存在だ。思春期を迎える頃には顔をあわせればケンカ。俺のレコードやマンガなどを勝手に持ち出し汚したり傷つけたり…。そのたびに激しいケンカだ。
 弟のエロに関するこだわりは凄まじく、エロ本の類はどこに隠しても必ず見つけ出された。屋根裏に隠したはずが、ヤツの部屋にあるのを見つけた時は心底驚いたが、本人は「執念、執念」と言って胸を張っている。正月の書き初めに「執念第一」と書き上げ、学校の廊下に張り出されていた時は呆れて物が言えなかった。
 あれから40年あまりが過ぎ、今では年に数回しか会う事もなくなったが、ある日弟の連れ合いから連絡があり、弟が重い病気であるという。病院を訪ねると、病室には痩せ細ったヤツがいた。
「おい、生きる執念を出せよ」
 話しかけて手を握る。何か言いたげな口元に耳を寄せると、掠れた声で囁いた。
「担当の女医がエロいんだ…兄さんも拝んでから帰りな…」
 弟というのは、本当に厄介な存在だ。
(410文字)


たらはかに様の企画に参加させていただきます。今回はなかなかアイデアが浮かんできませんでした。ちなみに私は弟の方で、兄はきっとこう思っていただろうな、と想像して描いたところもあります。

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