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さくらんぼを歌う夜

こんばんは。今日もお疲れさまでした。

仕事先の男性とはなんと魅力的なのでしょう。私はいつもそう思っています。その人はバイト先の社員さんでした。歳は3つ上。チームリーダーをしていました。

仕事をする時は、いつも仕事部屋にケツメイシの「さくら」がかかっていました。よっほど好きだったのか、変えるのが面倒だったのか、季節を問わずずっとさくらでした。

彼に彼女がいるのは知っていました。同じ職場で、私と同じ歳。髪は茶髪のストレートのロングで、少しおへそが出るくらいの短いトップスに、スキニーデニムを履いていました。仕事が終わる時間になると、彼女は彼の側に毎日のように駆け寄ってくるので、そのフロアのみんなが知っていました。

彼はスーツにも関わらず、髪は茶髪がかっていて、少しパーマがかかっていました。彼と彼女はとてもお似合いでした。

20代前半の私が彼を好きになってのは、きっと仕事の上での憧れだったのです。プライベートでは少しの趣味も合わないことは分かっていました。現に私は、彼と彼女の会話もその感覚も少しも理解することはできませんでした。

その日は、フロア全体の飲み会がありました。お金のない私はあまり参加したことはありませんでしが、なぜかその日は参加したのです。

カラオケの奥の席で、彼と彼女が横にべったり座って、腕を絡ませているのが見えました。その席にいる誰もが、それに慣れてしまっているのか、誰もそれについて何も言いませんでした。

彼はケツメイシや湘南の風を歌って、場を盛り上げていました。その場のほとんどが20−30代で、そのノリが大好きだったのです。

マイクが私に回ってきました。私は微妙な音痴なのでカラオケではほとんど歌いませんが、そんな雰囲気ではなかったので、大塚愛さんの「さくらんぼ」を歌ったのです。普段は静かな私が「もういっかい 」コールをすると、思いの外盛り上がりました。

歌いながら、彼らを見ました。普段は私に一瞥くれることもない彼女もこちらを見ています。でも、これは彼らにぴったりの歌でした。きっと歌うなら彼女だったと思いました。

その場の盛り上がりとは反比例して、私の心は次第に冷めていくのがわかりました。

その後、彼女の歌の順番を待たず途中で抜け出した私は家でケツメイシの「さくら」を聞いていました。これは憧れだと分かっていても涙が出ました。そしてその恋は終わりにしたのです。

街の中で、「さくら」や「さくらんぼ」を聞くといつもあの二人を思い出します。若い二人の恋に付け入る隙もなかった若い私は、彼らに憧れていたのです。あれは彼らの歌だったのですから。おやすみなさい。

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