長男とバレーボール2
男子バレー部の顧問になった旦那は忙しかった。土日は部活で家にいることが減った。しかし、長男と過ごす時間は格段に増えた。なぜかというと長男はほぼ全ての試合や練習試合に帯同したのだ。私が予定のある日は長男だけで参加し、保護者の皆さんと一緒に応援するという熱狂的サポーターぶり。上の子がいない長男にとってバレー部のみんなは歳の離れたお兄ちゃんのように慕っていたし、保護者の皆さん含めてとても長男のことを可愛がってくれた。練習の時はボール拾いに参加し、試合では全員の名前を覚えて大声で応援していた。
長男はとても育てやすい子だった。言葉が出るのもオムツが取れるのも早く、イヤイヤ期もちょっと面倒くさい上司みたいにブツブツと文句を言う程度で、寝転んで泣き叫ぶというような姿はあまり見たことがなかった。それどころか普段全然泣かなすぎて、Googleで"サイレントベイビー"と検索したくらい泣かなかった。その長男が、当時もう幼稚園の年少さんになっていた長男が寝転んで泣いた日があった。夏頃の中学生の練習試合で突然ギャラリーに寝転んで「ウァーーー」と声を上げて泣いたのだ。私も、近くにいた保護者の皆さんもびっくりした。少し落ち着いた隙に「どうしたの?」と聞くと「パパは、中学生のみんなにはバレー教えるのに僕にはずっと教えてくれない。悲しい」と彼は言った。そんな長男の姿を見た保護者の皆さんから「先生、長男とも一緒にバレーしてあげて!あんなに泣いて可哀想だったよ!」と言われ、旦那もこの日から少しずつではあるが長男のバレーボールの相手をするようになった。マジでほんの少しなんだけど。
中学生たちの話を少し。旦那が受け持ったのはしばらく県大会で一度も勝てないチームだった。しかし、能力の高い子が多く、また「叱ることはしなくていい。知らないんだからやり方のヒント教えてあげればいいんだよ。そこからあの子たちの思いつくアイディアの方が面白いし」という旦那の緩い指導とマッチしたのか、漫画みたいに面白いチームになっていった。コロナ禍の前の新人戦では県の上位になり、県大会より上の大会の参加も決まり、夏の大会では県を取る!と子供たちは意気込んでいたがそれはコロナ禍で叶わぬ夢となった。最後は交流試合という形で引退となってしまった。「夏の大会でメダルを取って、長男にかけてあげる」と言ってくれていた約束もチャレンジすらできずに終わった彼ら。そんな彼らを兄のように慕う長男は保護者のみ観覧できる引退交流試合終了後に会場へ行き、三年生ひとりひとりに手作りのメダルをプレゼントした。「みんなは本当はメダルあったの。でもコロナでなくなったからどうしても僕はあげたいんだよ」と長男が作った手作り金メダルを三年生はとても喜んでくれて、みんなで写真を撮った。
その夏、我が家は家を建てた。場所は旦那の中学校の校区。夫婦共にそこの出身ではないが、田舎で自然が多く土地が広い所が良いという旦那の希望と「みんなと同じユニフォーム着て、今度は僕が一番したいの」という長男の思いもあり、あんなに良い子たちが育った場所に住むならばと私もこの土地に住むことを決めた。当時の中学生は高校生になり、今はそれぞれ違う道を選んでいるが一番旦那に懐いていた子は旦那の母校へと進学し、帰省すると会いにきてくれる。最近では学校も部活も休みになったからと長男とよく一緒にバレーしてくれている。
正直なことを言えば、私も旦那も未だに長男がバレーボールに夢中になっていることを両手を挙げて歓迎はしていない。未だにもっと違う事もしてみたら?という気持ちはめちゃくちゃある。ここまでしておいてと思うかもしれないが、私と旦那は"子供たちが好きなことを好きなだけ楽しんでほしい"と思っていて、長男にとって今はそれがバレーボールだということを(本当はピアノとかダンスが良かったなーなんて思いつつも)受け入れているという絶妙な心境なのだ。ちなみにスーパービッグで左利きの次男はピタゴラスイッチとトムとジェリーに夢中である。「楽しいならやってればいいよ。やらなきゃ!がんばらなきゃ!と何かに追われるようになったらやめてもいいよ、疲れるもん」と子育てやスポーツに熱心な方からは怒られそうな緩い子育て。自分達の子供と言えど彼らの人生の主役は彼ら自身なのでどんな選択をしても親として見守りたいなと思っている。例えば長男がある日突然バレーボールじゃない何かに目覚めて、それに夢中になったとしてもそれはそれで面白い。ただ、しばらくはバレーボールに夢中そうだなと感じるので「バレーボールでだけは目立ちたいし、褒められたい」という長男の思いで始めたTwitterの動画投稿に反応をくれたり、お世話になっている皆様にはこれからも親戚のような眼差しで暖かく見守っていただきたいと思っております。オンライン親戚。もしこの先何年もバレーボールを続けるようなら『長男とバレーボール』も3や4が書けるかもしないが今はここまで。バレーボール好きな小学生の備忘録、お読みいただきありがとうございました。