息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話15
それからすぐに面会時間が終了した。
また来るからね。と約束し、強く抱きしめてPICUを後にした。
今日の反応は意識が回復したとは言えない。
脳波の乱れも改善していないし、手足は動いていたけれど、麻痺や後遺症、薬の副作用の問題だって出てくるのかもしれない。
今までの私なら色々考えては悩んだだろう。
でも、息子は懸命に生きようと足掻いていた。
生きる意志を感じられたのだから、私は信じて支え続けるのみだ。
問題が起こったら、その都度一緒に考え、悩み、乗り越えていけばいいのだ。
一緒に悩み支える為に親は居る。
生きてさえいれば、きっとそうやって進んでいける。
この気持ちを忘れないように、大切に握りしめて家路を急いだ。
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この日の夜、夫の両親が来てくれることになっていた。
長男が搬送された当日、夫から連絡を受けてすぐ予定を調整してくれたと聞いた。
本当に申し訳無かったが、食事や寝床を用意する余裕が無く、ホテルを取ってもらった。
この日は夫がホテルを訪ねて状況を説明し、翌日の午前中に我が家に来てもらい次男にも会ってもらおうと話していた。
面会から帰り、長男に反応があったことを伝えると、夫はポロポロと涙を流して崩れ落ちた。
「…良かった…!」
そう言う夫の背中をさすりながら、私の目にも涙が溢れた。
それを不思議そうに見つめていた次男が、私の真似をして夫の背中をさすった。
「…あはは!ありがとう。パパ元気でたよ。」
そう言って夫は泣き笑いのくしゃくしゃな顔で次男を強く抱きしめた。
長男が倒れてから初めて、我が家が本当の笑顔に包まれた瞬間だった。
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「せっかく会えるから、時間は気にせずいっぱい話しておいでね。不安な気持ち聞いてもらって、泣けたらすっきりするよ。」
そんな言葉をかけて、夫を義両親の元へ送り出した。
次男と2人きりで過ごす夜。
ご飯を食べさせ、お風呂に入り、次男の大好きな絵本を読む。
いっぱい抱きしめて、大好きだよ。と伝える。
次男が生まれてすぐに長男が赤ちゃん返りをした。
そこからは怒涛の毎日で、出来るだけスキンシップをとってきたつもりでも、次男と2人きりでゆっくり過ごしたのはいつぶりだったのか思い出すことが出来なかった。
長男が倒れてから、両親は笑顔だけれど時々泣き崩れる。
まだ一歳すぎの次男は、よくわからないながらも不思議に感じていたことだろう。
これ以上不安にさせないように、次男のケアもしっかりしていかなければと思った夜だった。
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夜の8時半すぎ。
興奮した次男を寝かしつけた直後に、思ったよりも早く夫が帰宅した。
出迎えると、少し草臥れたようなすっきりしたような顔をした夫がいた。
「やっぱり親って、いつまでも特別な存在なんだね。」
そう言って、色々な話をしたり聞いたりして夕食を共にしたエピソードを聞かせてくれた。
少し、気持ちが落ち着いた様子の夫に、私もホッとした。
息子達にとっては、その『特別な存在』は私達なのだ。
大変な時こそ頼ってもらえる関係を築いていきたい。
子育てはまだまだこれからなのだ、と前向きな気持ちが芽生えた夜だった。