見出し画像

息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話21

この日の長男の様子を見て、少しずつ体力が戻ってきているのを感じた。

DVDを見たり、絵本を読んだり、おしゃべりをしたり。

出来る限り長男が望んだことを一緒にするよう心がけて過ごしていた。

少しくたびれてはいたが、寝てしまうことはなかった。

合間合間に先生方や看護師さんから説明を受ける時間があったが、その会話の最中でも

「ママ!こっちにきて!」

「ママ、おはなしおわった?」

と、ある程度大きな声で話しかけられるようになっていた。

そして、面会時間の終わりが近づいているのを感じ取ると

「パパに会いたい…!」

「ママ、帰らないで!」

と、私の腕を抱え込み、大泣きしながら訴えた。

本人は倒れた日の記憶は一切無い様子だった。

目覚めたら突然見知らぬ場所に寝ていて、両親や知っている人は誰一人いない。

点滴や様々なコードが繋がっていて自由は無く、喉にも何か管が入っていてしゃべることも出来ず、苦しいのだ。

どれほど恐ろしかっただろう。

今だってどれほど不安だろう。

それでも、わがままも言わず必死でリハビリを行い、治療も頑張っていた。

そんな息子を一人にしたくはなかったし、そばにいたいとどんなときも願っていた。

それでも、今はここが彼にとって一番安全な場所なのだ。

ここには彼を見守り、信じ、治療を続けてくれている先生方がいる。

私も、そんな病院の方々を信じ、託すことしか出来ないのだ。

色々な気持ちをぐっと堪え、長男を抱きしめる。

「ごめんね。ママも本当はあなたと一緒にいたいんだよ。

だけど、ここではずっと一緒には居られないんだよ。治療の邪魔になっちゃうし、コロナもこわいからね。

ママの代わりに、あなたのお気に入りのぬいぐるみさんが一緒に居てくれるからね。

ママはこのお部屋から出ても、おうちに帰ってもずっと長男のことを一番に考えているよ。

ずっとずーっと大好きだし、あなたと一緒に居たいと思っているからね。

苦しいし、寂しいよね。不安だと思う。

でも、長男が倒れてしまった原因の病気はまだ治って無いんだよ。

だから今頑張って病気を治して、元気になって一緒におうちに帰ろうね。

ママまた必ず面会くるからね。」

そう言って、もう一度ぎゅっと強く抱きしめて、

いやだ、帰りたい、置いていかないでと泣き叫ぶ長男を看護師さんにお願いし、PICUを後にした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その日の面会終了後、メンタルケアの先生と面談をさせて頂くことになっていた。

今回お世話になった病院では、入院患者の家族のメンタルケアも重要視していると説明を受け、

「もしよかったら一度お話聞かせてもらえませんか?」

と言って頂き、カウンセリングを受けることになったのだ。

今回のような急に症状が悪化したパターンだと、両親が症状を見逃したと自分を責めるケースや、両親がお互いを責めてしまうことも多いと説明された。

実際に私も最初の数日は気付けるような不調の兆しがあったのではと自分を責めてしまう時間もあった。

それでも、とにかく助かって欲しいと情報を求めてばかりいた為、そこまで精神的に自分を追い込むことは無かったように思う。

不安に押しつぶされそうなときは慰め合える相手がいたし、次男の存在もとても有難かった。

まだまだ手がかかる1歳すぎの次男は、異変は感じ取っているものの、笑顔も見せてくれるし、日常を楽しんでいた。

そんな次男に落ち込んだり悩んでいる姿は見せたくなかったし、無理矢理に笑顔を作ることで気持ちを整えることが出来たと感じる。

そんなことを話しながら、息子の泣き叫ぶ姿を思い出し胸が苦しくなった。

「私は精神的にも落ち着いてきたと思います。

ただ、長男はまだ3歳で、産まれてから今まで夜はほとんど私の横で一緒に寝ていた子です。

注射も予防接種のときくらいで、入院の経験もありません。

倒れた記憶も無いまま、突然ここで目覚めて、点滴だけで無く色々な検査のコードがついていて…

もちろん治療のためには仕方がないことですが、長男の精神面への影響を心配しています。」

目覚める前から心配していた気持ちがどっと湧き出してきた。

長男が意識を取り戻すまでは、まずはどうやって命を繋げるか、そればかりだった。

けれど、私の呼びかけに反応を示してくれたあの日から、彼が本格的に目覚めたとき、私や夫がそばに居ることが出来ない可能性が高いことを心配していた。

パニックを起こしたり、トラウマになってしまったり、精神面に影響が出ることにならないだろうか。

気がつけば、そんな気持ちをぽつぽつと吐き出していた。












サポートしてもらえたら、嬉しいです😊寄付や家族時間の充実に充てたいなと思っています。よろしくお願いします!