息子が急性散在性脳脊髄炎になって倒れた話23
長男が倒れて10日目の朝。
突然電話が鳴った。
長男の入院している病院からだった。
胸が痛いと思うほどの鼓動を感じながら、急いで電話に出る。
『おはようございます。
昨日からの様子を見て、問題無さそうでしたので、本日一般病棟に移ることになりました。
お立ち会い頂きたいのですが、よろしいでしょうか?』
長男の体調になにかあったのかと思い電話に出た為、真逆の内容に頭がうまく働かなかった。
「立ち会いは問題ありません。
何時頃伺えば良いでしょうか?」
咄嗟に出たのはこのくらいだった。
13時30分には移動完了する予定とのことで、それまでに教えられた病棟に直接来るように、とのことだった。
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13時20分頃、教えてもらった病棟へ行くと、まだ来ていない為待合室で待つように指示を受けた。
そこは病棟の入院患者の家族用待合室で、PICUにも同じような部屋はあったが、少し趣が違っていた。
しばらくすると、PICUで何度かお会いしたことのある看護師さんが2人、待合室を訪ねてくれた。
「この度は、一般病棟へ移動できたこと、おめでとうございます。
今、移動と引き継ぎが完了しました。
今後は主治医及び神経内科の医師が中心となって治療を進める予定です。」
にこやかに、そしてとても丁寧な説明をしてくれた。
「搬送されてからの10日間、PICUの皆様には大変お世話になりました。
まだ、治療の最中ではありますが、ここまで回復出来たのは皆様のおかげです。
本当にありがとうございます。」
そう伝え、頭を下げた。
「いえいえ、長男くん、ほんとにお利口でわがままも言わないし、ベッドの前を通る時は手を振ってくれるんですよー」
そんな話を聞かせてくれた。
穏やかな雰囲気の中、意を決して聞いてみた。
「あの、PICUの皆様に直接お礼を言いに行くのはやはりお邪魔でしょうか…?
とてもお世話になったので、後日行けたらと思ったのですが…」
救急医療の現場に、このような理由で立ち入るのは、様々なリスクの面もあり難しいだろうとは考えていた。
ただ、信じることしか出来なかった私達のかわりに、息子を24時間見守り、お世話し、治療してくれた方々への感謝をどうにか伝えたかった。
「うーん、お気持ちは有り難いのですが、それであればお手紙などを頂ければ、スタッフみんなで見ることも出来ますよ。」
にこやかに素晴らしい提案を返してくださり、その後キリッとした表情になる。
「長男くんの今後の回復をお祈りしております。
それでは、失礼致します。」
「本当にお世話になりました。ありがとございました。」
そういって互いに礼を交わした後、足早にPICUに戻る二人を見送った。
息子のような少しの時間も目が離せない患者が常に来る現場だ。
私の想像を遥かに超えて過酷な面もあるだろう。
それなのに、幼い息子だけでなく、私達にまで寄り添い、あたたかな思いやりを感じさせてくれた。
この10日間の色々なやり取りを思い返し、感謝の気持ちが胸に溢れた。
そして、気合を入れ直した。
今、息子は環境が突然変わって戸惑っているだろう。ただでさえ不安定になりやすい状況だ。出来るだけ一緒にいてあげたい。
そう思い、いそいで病棟内へ向かった。