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海辺で

切なく光る白浜の角に立つ鏡に映った彼女は、
黒いごみを拾い上げて、幼く、空を見上げた

「運命とは、海辺の黄昏だ
 その間、詩人にとって、この世界は海にすぎない」

哀しみを失った詩人に、白い月が溶けて、
人類は、愛についての言葉を手に入れたと考えている

少し彼方に彗星が、遠く此方に妖精が
運命の恋が重力を駆けて、一輪の薔薇を形づくったと人々は話す

眼鏡は鼓動になりたくて
鼓動は約束になりたくて
約束は黄昏になりたくて
そう考えた哀しみを忘れた詩人は、運命を、海に変えてしまった

しかし、わたしは、ある言葉で、この世界が形づくられたことを知り、この海辺で目を覚ました



「あの日以来、君に伝えたい言葉がある」


そう思うと、いつも、鏡の中で誰かが海に走っていく音がする


 海は、詩人の涙だ
 片割れた彼女の孤独が、海辺の黄昏をこんな色に染めている

ということを、もうひとり、鏡の中で知っている誰かが、あちらの海辺にいる


だから、わたしは、ここの海辺で問う

 君は、世界をこのままで終わらせるつもりかと

すると、また鏡の中で、誰かが海に走っていく音がした


詩人は、わたしに優しくほほえみかけた
わたしは小さい会釈を返して、
「海は、君に変わる」、と意志を胸に呟いた

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