三日月
三日月をみるとチシャネコが笑ってるように見える。
”不思議の国のアリス”が子どもの頃、好きだった。
大人になって見ると、なんてヘンテコな世界なんだと思った。
動物たちは身体を乾かすために、ぐるぐる回って走ってるけど
波がずっと押し寄せてくる場所なので、その度に濡れて乾かないまま。
なにかを食ベると、身体が大きくなったり小さくなったりする。
お茶会ではなんでもない日をずっと祝ってる。
裁判は女王様の独断で進んでいく。
子どもの頃はこの世界を変とは思っていなかった。
いつから変と普通の基準ができたのだろう。
この世界はおかしいと訴えるアリスに、チシャネコは
この世界に普通はないという。
あ、普通って環境によって変わるのか。
たしかに海外に行けばびっくりすることがいっぱいある。
でもどの世界にも共通することがひとつある。
なんでもない日が幸せなこと。
竹野内豊主演のドラマ「この声をきみに」でこんなセリフがある。
「何をしてもぽっかりと空いたままの心が
朗読を聞いたその瞬間、ほんの少し満たされたような気がした。」
わたしはひとりで本屋にいるとき、なんとなく落ち着く。
”なんとなく”を言葉にするのは難しいが、
たくさんの本をみていると自分のいまいる世界だけが
すべてではないような、いつでも本の中の不思議の国に
飛び込んで行けるような感覚があるのがほっとするのかもしれない。
ほんの少しだけ、満たされるもの。
それさえあれば、いつだって”なんでもない日バンザイ!”なのだ。