源実朝のこと
ご無沙汰しております。メディア事業部のIです。
今回は旬?なBLネタをお届けいたします。
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第39回「穏やかな一日」はご覧になられたでしょうか?すでに様々なネット記事になっているとおり、とてもせつないBL回でした。
これは、筆者が翻訳BL(たとえば10/3連載スタートの『ハーフライン』)を読みすぎてBL脳になっているからとか、解釈の問題ではなく、実際にBL回だったのです。
ドラマのオープニングでは、
の和歌が朗読されます。ここで少し違和感を得ました。
それはなぜか。
まず、いつものオープニングは文章でのあらすじだから。なぜ今回は歌を引用するのかわかりません。
そして、源実朝の和歌にはほかにもたくさんの秀歌・名歌があるからです。
この和歌もいい歌なのですが、たとえば小倉百人一首にもある「世の中は つねにもがもな なぎさこぐ あまの小舟の 綱手かなしも」でもよかったはずです。あとで紹介する「箱根路を……」の和歌でもいい。
(なぜこの和歌を選んだのか?)
文学をかじっている筆者はこの時点でモヤモヤします。
話の中で、源実朝が北条泰時に歌を贈ります。
そして、「返事ちょうだいね!」と、返歌まで要求します。
このとき、BL脳になりつつある筆者はこう疑います。
(もしかしてだけど……恋の歌じゃないの??)
そうだったら面白いな~くらいの気持ちでドラマを見続けていくと、いろいろと伏線の回収が……。疑念が確信へと変わっていきます。
さて、泰時は自宅にてどう返すべきか思い悩みます。
鎌倉武士には難しい宿題かもしれません。
そこに源仲章という御家人でありながら後鳥羽上皇にも仕えるという、なんとも雅な男が口添えをします。
「それ恋の歌ですよ、ププッ」と……。
その和歌とは――
でした。
「春霞が立っている龍田の山の桜の花がはっきり見えないように、
私のあなたへの恋心も誰にも知られないのでしょうね!」という意味ですが、あまり有名な和歌ではないので聞き逃した方も多かったかもしれません。
さすがに「これ恋の歌じゃん!」となった義時は実朝の邸に出向いて、
「これ、間違ってますよ~」と和歌を交換してもらいにいきます。
そのとき、実朝は切なそうな顔をして、「大海の」の和歌を送ったのです。
本来、大海の~の歌は壮大な海のようすを詠んだ名歌ですが、
ドラマでは「恋心が砕ける」という解釈でこの和歌が使われました。
ここでオープニングの和歌が回収されていきます。
以上は、大河ドラマを脳内で振り返ってのものなので、やや誇張表現を含んでいますが、ざっとこんなものでした。
と、いうことで、まるまるBL回であったというのが、後で振り返っての感想です。
伏線はこの話以前にもあり、見事に回収されてしまいました。
ワンシーンBLなどは過去にもありましたが、一話マルマルというのは、大河ドラマとしては初めてなのではないでしょうか?
なお、実朝の歌は『金槐和歌集』にまとめられ、現在でも読むことができます。
万葉調(おおらかで壮大なスケールの歌風のこと。賀茂真淵によれば「ますらおぶり」)の歌人としても有名です。
まったくの偶然なのですが、3代目将軍にはBL話が多いような気がします。
たとえば、足利義満、徳川家光など。
義満×世阿弥、家光×堀田正盛などいろいろな妄想が膨らみますが、そもそも武士の世では男性同士の恋愛は当たり前のものだったのです。
大名や将軍は跡継ぎ問題がありますので、多少複雑ですが、そういう恋愛を描いた文学作品も残っています。
こういうことは義務教育では教えてくれないので、自分で調べるか、大学で学ぶか……となりますが、文学研究者や歴史研究者にとってはよく知られていること。面白話として語られる場面も多いですが、当の本人たちはきわめて真剣だったのです。
さいごに、源実朝の歌のうち、筆者がもっとも好きな和歌をご紹介します。
この歌の情景は十国峠(熱海駅よりバスとケーブルカー、徒歩で約1時間)で見ることができます。
そこには歌碑が立っています。遠くに小島が見え、そこに白波が立っているという、なんとも爽快感のある大きなスケールの歌です。
首都圏からそんなに遠くなく、日帰りも可能。
古き世をしのびつつ、変わらない自然の景色を楽しむのもまた一興です。