鑑賞ログ「偶然と想像」
22010123@Bunkamuraル・シネマ
各賞を総なめの勢いの前作「ドライブ・マイ・カー」にうまくハマれなかった私。でも評判がいいし、知り合いにも勧められたので観ようかなと年末から片想いをしつつ、なかなかタイミングが合わなかったりでやっと鑑賞。
「ドライブ・マイ・カー」より全然わかりやすい。とはいえ、多いセリフの棒読み、長回しの濱口イズムは全く変わらない3部構成の作品。
日本ではオムニバスはヒットしないと言われているけれど、お客さんはそれなりに入っていた。各賞獲ってる監督の新作ということももちろん大きいんだろうけれど。
それぞれの作品の尺は短い。でも満足度は十分。そして、どれも曖昧でそのままにしておきたい感情やそのままにしてしまった感情を登場人物たちがあまねく言語化していく印象。あんなに人って喋るモノなのかなとはちょっと思ったけれど、特に第3部はそれが滑稽さを生み出していく。
第1部の「魔法(よりもっと不確か)」は恋愛がテーマ、第2部「扉は開けたままで」は性がテーマ、第3部「もう一度」は過去がテーマかな?メインタイトルもきちんと作品を表している。偶然があって、その先に思いもよらない出来事が起こる。それが創造なんだろう。創造の理由もそれぞれ違うし、決着も違う。それぞれが全く違う作品だけれど、とっ散らかっているわけでもないし、きちんと根底で繋がっている、久々に気持ちいい塩梅のオムニバスを観たような気がする。
それにしても、それぞれの作品のセリフの長回しがえぐい。特に第1部がわかりやすい。舞台を観ているかのよう。でも、観客の目は舞台よりもカメラを通して俳優陣の表情に肉薄しているから、リアルとフィクションが限りなく肉薄していくのを感じる。ま、フィクションなんだけど。
それぞれの俳優陣も良かった。第1部は、中島歩の整いきれない顔がいいな…(褒めている)。そして声。古川琴音の声も好きだし。二人の声の応酬が耳福だった。やっぱり映像作品は俳優の声も大事よね。そして、濱口監督はホン・サンスが好きなんだろうなぁ。第1部の最後、どうやって撮ったんだろう。想像通りだったらちょっと笑っちゃうな。でも偶然が好きな韓国版ロメールとは違って、濱口監督はガッチガチらしいけれど。
第2部は渋川清彦が渋くて、でもちょっと情けなくていい感じだった。もっと怖い人だと思ったのに、一気に普通の人になる瞬間に、笑い声が上がってた。初めましての甲斐翔馬も良かった。そして3作の中では一番驚いた終わり方。
第3部は占部房子はもちろんいいけれど、河井青葉が好きー。一番笑えるのはこちら。登場人物たちの年齢だからこその笑い。ありそうなんだもの。そして、「時間に殺されていく」と言う表現がかなりグサッと刺さった。ヒリヒリするよー。
それぞれできちんと感動が揺さぶられて、良かった。
第1部は工事の音、第3部はトラックの音が印象的だったけれど、第2部もモチーフとなる音があったのかしら。ちょっと聞き逃してしまった気がする。誰か教えてほしい。