働き方改革のきっかけ。

すこし前の話になる。
僕は週の半ばの仕事終えて、うきうきと帰り道を進んでいた。
前日、前々日とものすごく残業していたし、
家に帰っても残りの仕事にとりかかっていたからだ。
今日は、やっと早く帰れる。家に帰って、ゆっくり寝よう。
そんなことを考えながら歩いていた。

当時勤めていた会社は、駅ビルに直結していて、
その中を通って帰るのが駅までの最短ルートだ。
朝はどしゃぶりだった雨も止んで、
まだ乾ききっていない傘を片手にショッピングフロアを歩いていた。
前には5歳くらいの男の子と、お父さんらしき男性の人。
仲良く手をつなぎながら歩いていた。
なれない長靴をはいた息子を、ゆっくりとした足取りでリードするお父さん。
19時前の平日のほほえましい光景だった。

僕は早く帰りたかったので少し早歩きだ。
左手に持った傘が、たまにフロアの床をホップする。
当たり所が悪かったんだろう。
傘が床に引っかかってしまい、僕は軽くつまづいた。
おっと、と思いながら1歩2歩と前につんのめる。

その瞬間、1-2メートル先にいた親子が素早く動いた。
お父さんがわき目も触れず、守るように息子に覆いかぶさっていた。
息子のほうはぽかんとしていた。おそらく僕も同じような顔をしていたと思う。


しばらくして、納得した。
なるほど、なるほど。
あれは、愛する息子を守る父親の姿だ。
この瞬間、ある父親の無償の愛を見たのだ。
なるほど、なるほど。
父親には、僕が通り魔か何かに見えたのだろう。
気づかないうちに、クマもつくっていたかもしれないし。
息子を守る父親と、残業続きで疲弊した勤労者。
誰から見ても幸せな方は歴然だ。

これがきっかけで、なるべく無理しない働き方をしようと思った。
決して、不審者に間違えられたからではない。決して。


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